柘植久慶の作品には、軍隊経験のある日本人が世界の紛争地域で活躍するというものが多い。本書もそのような設定の3部作の第一作。主人公綴喜(ツヅキ)士郎がフランス外人部隊で10年勤めた後、曹長で除隊したところから物語は始まる。
再就職に悩んでいた彼はイギリスSAS将校あがりの人物にリクルートされ、南米サンタアナ共和国での対テロ戦争に身を投じる。架空の国サンタアナ共和国は目立った産業のない貧しい国、コカの栽培で軍資金を得たテロリストがわがもの顔で出没している。
2年後に改選期を迎える日系のウエキ大統領は、富裕な農園主ガルシアらの助けを借りて、対テロ部隊を創設したわけだ。ウエキ大統領のモデルは、言わずと知れたペルーのフジモリ元大統領。
フジモリ大統領も、テロに屈せぬ姿勢で人気を博していた。思い出されるのは、在ペルー日本大使公邸占拠事件。多くの日本人が人質になり、包囲は4カ月にも及んだ。人質の安全を求める日本政府に対し、フジモリ大統領は特殊部隊の突入という強硬策を選んだ。彼の策は当然のことだったが、日本の平和ボケメディアなどは非難したようだ。
本書は角川文庫への書き下ろし。綴喜士郎が戦略・戦術に抜群の冴えを見せ、どんどん昇進してゆく物語である。ワンパターンな部分もあるが、登場する武器の多様さやその使われ方、特殊部隊員の考え方や日常の過ごし方、時には謀略を使うズルさなどが克明に描かれている。それでいて淡泊なくらい余計な心理描写などはないので、スピーディに話は進む。
貧しい国なのに、カトリックの教えで中絶等ができないので子沢山。人口増に食料や資金が追い付かず、女の子は売春婦に男の子はコソ泥になるしかない貧民街が広がってゆく。単に戦闘シーンの魅力だけでなく、そういう国や地域が抱える問題を正面から捉えるのも、作者の得意とするところ。
フジモリ元大統領は外観は日本人だけれど今の日本人に欠けているものを持っていたように思います。それが本書にも散りばめられているようですね。