新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

CIA分析官、サー・ジョン

 ラリー・ボンドとたもとを分かち、トム・クランシーはサスペンスフルな作品を多く発表するようになった。主人公としてのジャック・ライアン一家も、時代とともに成長しついには大統領になる。一方若い頃のジャック一家を書くこともあり、本書はその代表的な作品。ジャックは、32歳。「愛国者のゲーム」と「レッド・オクトーバーを追え」の中間にあたるのが本書の扱う時期である。

 

 「愛国者のゲーム」では英国王室を襲ったテロを撃退する殊勲を挙げたものの、自らもテロの標的となったライアン一家。ジャックは英国王室から爵位を贈られ「サー・ジョン」となる。ライアン一家はロンドンに赴任することになり、妻のキャシーはロンドンの病院で、ジャックは英国情報部で働き始める。

 

 そのころソ連の圧力に耐えかねたポーランドでは「連帯」をはじめ、反ソ連の機運が高まっていた。当然ソ連は圧力を増すのだが、ポーランド出身の教皇はこれに心を痛めソ連に「事態が改善されなければ、自分は教皇を辞めポーランドに戻る」と通告する。

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 KGBのアンドロポフ議長は教皇暗殺の意を固め準備に入るのだが、暗号通信を担当するKGBの将校ザイツェフはこれを察知して「暗殺」を回避できないかと悩み始める。暗殺計画が進む中、意を決したザイツェフはモスクワの米国大使館員に接触し家族ぐるみの亡命をさせてくれればKGBの企みを話すともちかける。

 

 原題の「Red Rabbit」とはザイツェフ一家の暗号名。英米の情報機関が協力して一家をハンガリー経由で脱出させようとする作戦に、他に適任者がいなかったことからジャックが駆り出される。在モスクワCIAの夫妻が考え出した救出作戦は、夫婦と幼い娘に見える死体を用意しハンガリーのホテルの一室を燃やす間に一家とすり替える「奇術」のようなもの。まるで「Mission Impossible」だ。

 

 全4冊、1,300ページを超す大作だが、前半は特に冗長だ。ソ連の窮乏ぶりや社会の非効率的な動き、またイギリス人とアメリカ人の行動様式の違いなど、興味深いこともあるのだが本筋とは特に関係ない記述が目立つ。ワープロ機能の進歩で小説が長くなる傾向にはあるものの、4分冊にするほどの内容ではないと思う。ストーリーそのものは面白いのだが、半分の長さに切り詰めてくれたら評価するのだけれど・・・。