新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名探偵、最後の挨拶(前編)

 日本のミステリーで多作家の一人である内田康夫が、2017年には休筆宣言をしその後亡くなった。名探偵浅見光彦シリーズは100冊を越えるロングセラーで、僕も一時期読んだものである。警察庁高官を兄に持つ名家の次男坊でルポライターの主人公が、旅先などで事件を解決するのが定番である。旅情ミステリーとしての2時間ドラマからのニーズもあったのかもしれないが、好評を呼んだ。


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 そのパターンは「水戸黄門」に近いもので、地方の事件にルポライターごときが深く絡んでくると地方警察にとっては不審人物である。拘束してみると、高官の関係者ということで放免になるということ。これがウケル一要素なのだろう。警察といえど官僚組織であって、高官うんぬんには弱い。
 
 ミステリー作家としての技量にそれなりの敬意は払うものの、作者の多作家ゆえのスタンスには疑問があった。ある取材に対して「途中まで犯人が私もわかりません。物語の流れで」と発言していたのに違和感を感じたのだ。
 
 僕の考えるミステリー手法は「後ろから」であってほしい。トリック・意外な犯人・それが解明されるキーなどが解決からさかのぼって構成されるのが普通だと思っていたのである。
 
 もちろん多作ゆえの、連載ゆえの制約はあると思う。しかし、作者自らが途中まで結末を想定していないのは本格ミステリーとしては問題なのではないかと思って以降内田作品からは遠ざかってしまった。
 
<続く>