新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名探偵、最後の挨拶(後編)

 どんなロングセラーの作家でも、必ず書けなくなる時はやってくる。シリーズものの名探偵も、最後の挨拶をしなくてはいけないわけだ。古くはコナンドイルは、自分の分身とも言えるシャーロック・ホームズをスイスの滝のタコツボに落として殺そうとしたことがある。読者の猛抗議で復活させる羽目になるのだが、予定の倍の短編を発表してようやく「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」に至る。


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 最後の挨拶をする機会がなかった作品も多い。チャールズ・ディケンズの「エドウィン・ドールドの謎」は未完に終わり、その後を推測するマニアは多い。レイモンド・チャンドラーの遺作「プードルストリングス物語」は、ロバート・B・パーカーが書き継いで完成させている。
 
 ヴァン・ダインは12作目「ウィンター殺人事件」の梗概を残して亡くなった。これは梗概のまま出版され、ファィロ・ヴァンス最後の作品になった。イアン・フレミングも「黄金の銃を持つ男」の校正中に急死しているが、その後も007シリーズはいろいろな作家が書き継いでいる。これは「イアン・フレミング財団」の活動が大きいと思う。
 
 トム・クランシーも、協作者を次々に替え、マーク・グリーニーを得たところで亡くなった。グリーニーはジャック・ライアンものを書き続けている。一方、最後をちゃんと演出したのはアガサ・クリスティーエルキュール・ポアロミス・マープルの最後の事件を、脂の乗り切った時期に書き、それを自らの死後まで封印した。
 
 ことほどさように、名探偵の引き際は難しい。今回の浅見光彦も「狐道」という作品の最後をもって引退することになる。完結編を公募するというのは思い切った試みであるが、浅見光彦ファンにとっては興味深い企画になるだろう。