元SAS隊員の覆面作家、アンディ・マクナブのニック・ストーンもの第5作が本書。前作で、蒸し暑いパナマでCIAの仕事として、単身中国人の子供を狙撃するという唾棄すべき任務に就いていたストーンだが、今回も(別の意味で)唾棄すべきミッションに放り込まれる。
9・11の悲劇から半年、ニックたちはアルジェリアに潜入する。目標はアルジェリアでテロリストたちの資金洗浄を担当している男の暗殺である。前回は単独行動だったニックだが、今回は2人の協力者がいる。アラブ系の兄弟で、弟だけが英語を話す。素性はわからないが、ニックは「腕さえ確かなら、人となりなど知らない方がいい」という意見。誰かが捕まっても、仲間の名前も知らなければ仲間は助かるかもしれないからだ。
警備員の目をかすめ、フェンスをワイヤーカッターで切り、仕掛け爆弾も用意して3人は目標に迫る。目標の男は(これも唾棄すべき)少年趣味、3人は怒りを抑えながら突入して暗殺を成功させ、少年たちを救う。この時も3人は目標の「首」を切り離して持ち帰ることを要求されていて、ニックもナイフでその唾棄すべき行為をする。これがどんな意味を持つのかも、3人はしらされていない。ただ指示に従うだけだ。
3人のミッションは、非常に厳しいものである。単純に対象を尾行するだけでも、ものすごい手間がかかるのだということを、本書は教えてくれる。胸が悪くなるようなシーンや眉を顰める表現もあるが、実際の工作員の現場ではそうなのだろう。なんとか1人の目標を拉致するのだが、続く作戦行動で相棒の弟分が逆に拉致されてしまう。
弟が拷問され焼き殺されそうになる時の、兄のスタンスが神々しい。救出に力を尽くすのだが、全ては神の意思だとして冷静さをうしなわないのがすごい。結局兄弟は悲惨な最期を遂げるのだが、個人的に付き合わないとしていたニックが、死んだ二人のためにCIAに逆らって行うアクションが涙を誘う。