新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

インテリジェント海賊との闘い(前編)

 本書は、J・H・コッブのアマンダ・ギャレットシリーズ第四作である。第一作でステルス駆逐艦DDG-79「カニンガム」艦長としてアルゼンチン海空軍を一手に引き受けて戦った彼女は、第二作で揚子江を遡上するという荒業を見せ核戦争の危機を防いだ。この戦闘で「カニンガム」は大きく損傷、1年あまりのドック入りを余儀なくされる。

 
 その間、アマンダは大佐に昇進し高速ホバークラフト戦隊を率いて西アフリカの国家紛争に介入、ここでも独裁者の野望を砕いた。これが第三作だった。このシリーズ、米国海軍の伝統かどうかはわからないが、アマンダやその上司マッキンタイア中将の「UnODir」主義(要するに事後承諾)が目立っている。

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 太平洋戦争でも、あらかじめ決められた計画を墨守する傾向にある帝国海軍に比べ、米国海軍は現場の裁量にある程度任せていたと伝えられる。ただ、このお二人の所業はそんなレベルの独断専行ではない。とはいえ、始末に困る事態が発生するとこの二人に頼らざるを得ないのもまた確かなこと。今回は、インドネシア領内で暴れまわる海賊退治のミッションである。
 
 貴重な物資を満載した衛星の回収作業をしていた船が海賊に襲われ、乗組員もろとも綺麗に沈められてしまう。海賊は衛星を奪取していずこかへ潜伏、これを探し出して回収するのがアマンダ・ギャレット大佐の任務。マッキンタイア提督も、ご意見番として参戦する。
 
 インドネシアの東西の長さは大西洋の幅に匹敵するという。そこに無数の島や湾があり、集落はぽつりぽつり存在するだけだ。そんなエリアでの捜索活動は、第七艦隊の総力を挙げても数年かかるという。そこに、改装なった対地攻撃巡洋艦CLA-79「カニンガム」と、高速艇や航空機を搭載した揚陸強襲艦「カールソン」の2隻をひきつれてアマンダは乗り込む。
 
 一方の海賊だが、古来下帯ひとつでナイフを咥えて乗り込み略奪するということを生業にしてきたブギス族を中心に、獲物情報の収集、近代的な武器・戦術、盗品の販売ルートまで備えたインテリジェント海賊集団である。オランダ人とブギス族の両親を持つ、富豪で海運を含めた実業家ハーコナンがその指導者。末端の海賊からは、いつどこで待ち伏せして、どの船を狙い、こういう積荷を奪ってこの地点に運べという指示をくれる「海の王」とあがめられている。
 
<続く>