新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

等身大の女性制服警官

 本書の作者であるローラ・リン・ドラモンド自身、制服警官であったが事故で警官として勤務が難しくなり大学で学び直した後、作家に転じている。彼女は、自分自身の経験から等身大の女性制服警官を描いた。とかくミステリーでは、警官は素人名探偵や殺人課の刑事、検視官、鑑識官などと違ってほとんど端役扱いである。

 

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 例外としてはジェフリー・ディーヴァーの描くアメリア・サックス巡査くらいだが、彼女とてシリーズ2作目からは天才鑑識官リンカーン・ライムの教えで鑑識のプロになっている。派手な殺人現場の調査や、大団円の逮捕劇には縁が無くても、事件の捜査・市民の保護など日常の制服警官の働きは、実際に重要である。
 
 そのような職務に加えて、女性警官であるゆえの肉体的ハンデや心理的特徴があって、彼女たちの日常は一般人にはあまり馴染みのないものだ。本書には10の中・短編が収められていて、主人公の女性警官が5人登場する。そのリアリティは、まさに「警察小説」である。
 
 腐敗の始まった死体を見つけて、(死んでいるにきまっているのに)救急隊員を呼び、刑事・検事・検視官が死亡を確認するまで異臭ただよう死者と現場を保持しなくてはならない。60kg以上の大きさのハンバーガーが腐ったのと同じで、その臭気が制服に付いてしまって洗濯してもとれないという。
 
 銃器の扱いについても、目をつむって分解掃除や弾丸ごめが出来ないといけないというのはよく出てくる。本書では、それに加えてホルスターの位置や銃の持ち方も詳しく書かれている。このようなリアリティが満載で、各々の事件にさほどの意外性やスピード感がないことが逆に作品の質を高めている。
 
 題名は逮捕時に容疑者に対して告げることを義務付けられている、いわゆる「ミランダ警告」の一説である。ドラモンドは本書の一編で、2005年のアメリカ探偵作家クラブ賞を受賞している。気の滅入るようなシーンもあり、主人公たる女性警官もミスをし悪事をはたらいたりするのだが、実際はこうなのかなと思わせる短編集でした。