新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

インディアナポリスの貧しい探偵

 本書はすでに2作ほど紹介しているマイクル・Z・リューインのアルバート・サムスンものの第四作である。サムスンものの評価を確立したとされる作品で、シリーズ中最高傑作という人もいる。本書の発表は1978年、そのころ舞台となるインディアナ州の州都インディアナポリスの人口は70万人で頭打ちになり、以後10年ほどで減少に転じる。この街だけでなく、人口流出を始めとする地域経済の停滞が顕著になっていたころである。

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 ロフタル製薬という会社の研究室で爆発事故が起き、営業部門所属の男が重傷を負って会社関連の医療機関に収容されるが、7カ月たっても面会謝絶のままというのが、サムスンの探偵事務所に持ち込まれた依頼。セールスマンの男の姉が、面会させてもらえないと訴えてきたのである。
 
 セールスマンがなぜ研究施設で被害に遭ったのか、サムスンの調査でこの男は化学の学位を持ち研究職志望だったのに職が得られず営業職に就いていたことがわかる。研究施設の女性研究員も、「1960年代に大量の研究者を雇った企業は、私たちの世代を採用したがらない」中、なんとか仕事を得たと言っている。第二次世界大戦後のベビーブームは、アメリカでもありその次の世代の重しとなっているのがわかる。
 
 仕事がないのはサムスンとて同じ、前作「死の演出者」の紹介でコメントしたように、サムスンの費用は$35/日、マーロウ($100)、スペンサー($200)と比べると異常に安い。さらに本書では、「ただいま2割引きセール」と新聞広告を出し、実の母親から「情けない」と叱られる始末である。
 
 野心が強い被害者の男は、営業職と研究職を掛け持ちし(働き方改革に反して)深夜まで実験を続けて事故に巻き込まれたらしい。家を出られないほど衰弱した被害者の妻、何かを隠している仕事仲間の研究者、サムスンに手を引くように言う警察官などが登場し、最初は単なる事故と思われていたものが大きな犯罪の一部に見えてくるようになる。
 
 知生派探偵とも呼ばれるサムスンだが、銃も携行せず殴り合いもからっぺた、要はタフガイではないということである。ただ本書での粘り強い捜査は立派で、見事な探偵ぶりといえる。それでも全くお金にはならず、最後に自己破産状態に追い込まれてしまった。第五作はどうなるのか心配です。