新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

仮装強襲コマンド母艦(前編)

 J・H・コッブのアマンダ・ギャレットシリーズも5作目になった。2005年発表の本書以後、新しい作品はみかけていないのが残念である。4作目「攻撃目標を殲滅せよ」で、好敵手であるインドネシアの大富豪ハーコナンと知りあい、愛し合い、そして戦ったアマンダ・ギャレット大佐は、今回もインドネシアでハーコナンと対峙する。

 

        f:id:nicky-akira:20190427145757p:plain

 
 インドネシアは巨大な国だ。人口も2億人をはるかに超え、西はスマトラ島から東はニューギニア島(の西半分、イリアン・ジャヤ)まで無数の島々から成り立っている。先年独立したキリスト教徒の多い国東チモールをはじめ、島々には独自の文化・伝統・宗教を持った民族が点在し、国内事情は複雑を極める。例えば日本人にも有名なリゾートであるバリ島はヒンドゥー教徒が多く、イスラム教徒は少数派である。
 
 オランダがこの地域を統治する以前は、ブギス族という海洋民族が島々を緩く束ねる連合体としてきた歴史がある。ハーコナンは、ブギス族の族長とオランダ人の混血児で、前作ではインドネシアをオランダ統治以前のガバナンス体制に戻す軍事的蜂起を企画し、アマンダたちに敗れた。
 
 一度挫折したとはいえ勢力を残しているハーコナンは、再びインドネシア全土でゲリラ戦を展開し始める。この動きを察知した米国政府は神出鬼没のハーコナンを捉えるために、極秘理に開発していた「ファントム・フォース」なる戦力を、予定を前倒して投入することにし、指揮官にアマンダを選んだ。
 
 一方政府転覆を図るインドネシア海軍のケタマラン提督一派は、ハーコナンによって不安定化した政府を倒すなら今だと決起する。これはハーコナンにとっても意外なことだった。バリ島ではヒンドゥー教徒によってイスラム教徒が迫害され、大混乱に陥る。ジャワ島では反乱軍が大統領府を占拠、命からがら逃げだしたケディリ大統領はアメリカ大使館にかくまわれたが、そこにも反乱軍の機甲兵力を含む大部隊が迫る。
 
<続く>