新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

レイルバロン時代の終わり(後編)

 20世紀になったばかりの頃、アメリカ大陸の横断には最低4日を要した。「Wrecker」のテロは、カスケード・ギャップに限らずニューヨークなど東海岸にも及び、アイザック・ベルはサザン・パシフィック鉄道の特急券を利し、時には専用列車を仕立てて東海岸と西海岸を往復する。


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 「Wrecker」はエンジニアリングにも通じ、トンネルのどこに爆発物を仕掛けたら被害が大きいか理解している。ブーツには伸縮する特殊なナイフを仕込んでいて、テロ現場を取り押さえようとした警官はのどを突かれて死んでしまう。「Wrecker」は特段の組織を持たないが、木こりなど現地の無頼の人たちや暗殺のプロなどを、時には甘言をもって、時はカネをつかませて意のままに操る。
 
 ヴァン・ドーン探偵社も犠牲者を出し、当初はテロを止められずにヘネシー社長を激怒させる。カスケード・クロスにトンネルと橋梁で短縮路を作ることに彼は賭けているが、サザン・パシフィック鉄道の経営は限界に近づいていたのである。「Wrecker」のパターンを徐々に理解したベルの活躍で、テロの被害は減っていく。焦る「Wrecker」は暗殺者をベルに向けるのだが、ベルは負傷しつつも暗殺者を撃退する。
 
 このあたりホース・オペラと呼ばれる西部劇のような展開だが、20世紀初頭の経済環境が背骨を貫いていて単なるアクション小説の域を超えている。ひとつにはレイル・バロン時代の終りにあたり誰が全米鉄道ネットの支配者になるかということ、もうひとつは銀行業界がこの開発/買収戦争を冷ややかだが確かな目で見つめていること。
 
 ベルの父親は有力銀行の頭取で、息子に貴重な「情報」を与える。サザン・パシフィック鉄道が倒れればそのネットワークは安く買いたたかれるだろうし、それを目論んでいる男がいることを。ウラ社会にも通じる銀行業は、まさに「情報産業」なのである。
 
 クライマックスは画像にある橋梁の破壊を目論む「Wrecker」とベルの対決になるのだが、ダーク・ピットものより古い時代設定にしたこともあって独特のサスペンスを醸し出している。移動手段は遅く、電信や電話も自由度が低いのだから。このシリーズはまた探してみましょう。