新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

テニスというビッグビジネス

 スポーツ・エージェントであるマイロン・ボライターが、探偵役を務めるスポーツシリーズの第二作が本書。今回のテーマはテニス。作者であるハーラン・コーベンは、第一作ではアメリカ人に最も人気の高いアメリカン・フットボールの世界が舞台にしたが、テニスもまた大きな市場である。全世界的に広がっていることから考えれば、フットボール以上に市場価値は高いかもしれない。

 

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 21歳で彗星のようにデビューしたデュエン・リッチモノドは、黒人の好青年。15歳の時から路上生活をしていて貧困の中で育ったが、テニスで才能を開花させ全米オープンで決勝にも勝ち進む勢いだ。デュエンは大手のエージェントではなく、マイロンの事務所と契約していて、マイロンは彼を「エビアン」や「ナイキ」に売り込んでいる。
 
 テニス界も巨額のカネが動く。トップ選手が稼ぐカネで、試合そのものの勝利によるものは15%程度だという。残りは、エキシビション・マッチやコマーシャル特に大手企業との契約による部分が大きい。タイムアウトの時にデュエンが「エビアン」を飲むのだが、カメラにボトルのラベルが移る角度に気を付けている。「賢い子だ」と、マイロンが独白する。
 
 選手だけでなく見物客もコマーシャルに使われる。時々観客席もTVに映るから、企業のロゴ入りのキャップをかぶせられて$500のアルバイトになる。マイロンの恋人ジェシカのような美女だと、カメラに映りやすいので$1,000が相場。
 
 試合中、元天才少女プレーヤーだったヴァレリー・シンプソンからマイロンに連絡が入り、会おうとするのだが彼女は試合会場で射殺されてしまった。ヴァレリーの手帳にデュエンの電話番号があったことから、マイロンはこの事件に巻き込まれる。
 
 6年前にヴァレリーの恋人だった上院議員の息子が刺殺された事件や、大手のエージェントを営む(マイロンの商売敵)マフィア、マフィアのやとった殺し屋などがからんで、500ページの長編でも飽きさせることはない。 マイロンの推理に特に鮮やかなことはないが、エージェントとしてのマイロンの矜持やマイロンの相棒ウィンの独特なポリシーなど、登場人物が生きたハードボイルド風本格ミステリーとして評価できる。
 
 試合の見物に、イヴァンカ・トランプが出てきたり、錦織選手の指導をしているマイケル・チャンコーチが選手として登場する。錦織選手も、水のボトルの角度気にしているのだろうか?今度見てみましょう。