新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

戦略兵器としての石油

 マルコ殿下、ひさびさのアメリカでの活躍である。といっても冒頭は平和な殿下のお城「リーツェン城」でのパーティシーンから。CIAから貰う命の代償の資金で荒れ果てた城は少しづつ復旧、殿下も住めるようになりパーティも開けるようになった。

 

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 殿下自身も瓦葺きの作業に加わり、パーティの準備は順調に整いつつあった。訪問した英国の女性特派員と仲の良いマルコ殿下を見て、婚約者(ずっと婚約者のままだが)のアレクサンドラはおかんむりだ。
 
 しかしそこにアラブ系のゲリラ4人が乱入、特派員女性は文字通り粉々にされてしまう。炸薬弾を撃てる重火器が使われたらしい。マルコと元殺し屋の執事クリサンテムが4人を射殺するのだが、丹精の瓦も吹き飛びパーティ参加者にも犠牲者が出た。
 
 アラブゲリラの線を手繰るマルコは、テキサスの実業家/サウジの武器商人/エネルギー委員長を務める下院議員が絡んだ陰謀を察知する。おりしもアメリカ全土は寒波の中、石油不足で大混乱していた。
 
 サウジの武器商人はアメリカの旧式兵器を各国に押し付ける役割を担っていて、アメリカにとって重要人物だが、実はアメリカを窮地に陥れる作戦を実施している。CIAも疑いを持つのだが、ホワイトハウスに影響力を持つ武器商人には手を出せない(官僚だしね)。そこでマルコに武器商人を探るミッションが降り、マルコは厳寒のボストン、ニューヨーク、DCからちっとはましなテキサスに向かう。
 
 武器商人の計略は面白いもので、厳寒の時期が始まる1月に米国内の石油備蓄が最低になるように先物相場を操作、コンピュータシミュレーションで米国経済が崩壊するまで3カ月と読んでいる。そこで中東各国が米国への石油輸出を止めるのだ。
 
 ちょうど「オイルショック」があったころの1976年の発表が本書。シェールオイルが出た今ではリアリティの薄い話になってしまったが、自前のエネルギー源を持たない日本にとっては大きな教訓である。春からイラクからの輸入が「トランプ封鎖」されていて、この地域との関係は重要なことがよくわかりますよね。