新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

18歳、エドの成長物語

 最近あまり見かけない作家のひとり、フレドリック・ブラウンのかつての人気シリーズ「エド・ハンター」ものの第一作が本書。エド青年はカーニバル暮らしだが、たびたび事件に巻き込まれ伯父のアンブローズ・ハンターと共に探偵役を務める。このシリーズは7~8作あったようで、高校生の頃何作か読んだのだが、第一作は当時は手に入らなかった。

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 本書の発表は1947年、大都会で市井に生きる若者をヴィヴィッドに描いた作品である。18歳のエドは、印刷工見習いとして父親ウォレスと一緒に働き始めた。家では、後妻のマッジと連れ子で15歳のガーディの4人暮らしだ。エドは血のつながらない2人を、酔っ払いのあばずれとその予備軍だと思っている。音楽好きなエドの夢は、トロンボーンを買う事。働き始めたとはいえまだ少年期にいるエドは、3歳下のガーディにすらからかわれている。
 
 ペイデイの夜、街でハシゴ酒をしていた父ウォレスが路地裏で何者かに殴り殺される。狂乱するマッジと無関心なガーディを残して、エドは伯父アンブローズに助けを求める。ウォレスの兄アンブローズはカーニバルの香具師で人生の裏も表も知り尽くした苦労人だ。
 
 ありふれたストリート強盗と思われる事件では、警察も本気で捜査をしない。アンブローズ伯父は虎の子の400ドルを刑事の買収や、自ら捜査するための衣装を買い込むことに投じ、灼熱のシカゴで犯人を追う。伯父の指導を受けたエドは、持ち前の記憶力や適応力で事件の真相に迫ってゆく。
 
 終戦間もない頃のアメリカの庶民の暮らしがよくわかる書である。例えばバーで飲むビール1杯がダイム(10セント)とあるが、今は5ドルはするのでざっと50倍のインフレになっていることがわかる。再婚・連れ子などで崩壊しかけている家庭の問題、2交代制の印刷工場の労働環境なども作者は暖かい目ではあるが、赤裸々に描いている。
 
 18歳のエドを主人公にしながら、晩生の高校生が読むにはちょっと悩ましいシリーズだった。15歳のガーディの早熟さを、当時の僕には理解できなかったこともある。それでも軽快なテンポと庶民がしたたかに生きるありさまは面白かった。シリーズの第一作、とうとう手に入れて嬉しかったです。