新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

38式狙撃銃 vs M-1Cガーランド

 日本で戦闘/戦争シーンに迫力ある作品というと、どうしてもこの作者柘植久慶を措いては語れないと思う。自らグリーンベレーの尉官として戦ったという経歴の真偽はともかく、戦場の細かなシーンのリアリティは出色である。戦場の衛生環境、食事の摂り方、水の補給方法、衣類や靴の手入れ、気象の読み方、動植物の知識など微に入り細に渡るノウハウが混ざっている。

 
 もちろんライフルや手榴弾、ロケットランチャー、拳銃、銃弾等武器の特徴や扱い方も詳しい。国家戦略を論ずる作品もあるのだが、その中にもTVドラマ「Combat」をずっとリアルにしたような戦術シーンが出てくる。

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 本書は戦術級のもっとプリミティブなところ、「戦闘級」とも言うべきテーマの作品である。舞台は太平洋戦争末期のフィリピン、ルソン島。敗走を重ねる日本軍の中に、山村という漁師育ちの男がいた。彼は本隊とはぐれ、一人残った相棒と2つの丘に仮設陣地を作って難を逃れようとしていた。
 
 一方米軍のパトロールのひとりブラウン青年は、3人の仲間と共に山村たちの陣地に迫ったが、分隊長の軍曹以下3人ともを山村らの待ち伏せ攻撃で失う。一方、南の丘を守っていた山村の相棒も、ブラウンの銃火に倒れた。物語は北の丘に陣取り38式狙撃銃を持っている山村と、南の丘の壕に入りM-1C狙撃銃を持っているブラウンの1対1の対決を3日間にわたって描いたものだ。
 
 山村:漁師ゆえ山岳地でのサバイバルに長け、水や食料の備蓄もそこそこある。38式狙撃銃の弾丸は30発以下だが、手榴弾を2つと長い銃剣を持っている。
 
 ブラウン:膝を傷める前はアスリートだったから体力は十分、米軍の豊富なレーションや医薬品も持っている。M-1Cの弾丸は40発ほど、手榴弾2発と銃剣もある。
 
 38式歩兵銃の口径は6.5mmと非力で、ボルトアクションゆえ発射速度が遅い。M-1Cは7.7mmで8発を半自動で撃つことができる。山村が精度の高い狙撃を狙えば、ブラウンは弾幕を張って山村に頭を上げさせない。お互いに相手を引きずり出して始末をつけようとして罠を掛けたりトリックを使ったりする。道具は手元にあるいろいろなファシリティだ。
 
 結果はどうあれ、2人の戦いは体力の限りと知恵の限りを尽くすことになる。そのリアリティはほとんど例を見ないほどだ。自分がそういう目に合わないことを祈りながら、普通の兵士の戦いを追体験できたのは良かったと思います。