新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スペンサーの「荒野の七人」

 ある日スペンサーのところに西部から来た若妻メアリが訪ねてきて、夫を殺した奴を捕まえてくれと訴えかける。彼女の住む町ポットショットは荒れ地に囲まれた山間の町で、巣くったならず者集団<ザ・デル>に脅かされている。彼女の夫スティーブは海兵隊上がりのスポーツマン、ならず者に楯突いたばかりに射殺されたらしい。それでも町の警察は「証拠も証人も、手掛かりもない」と消極的、思い余った彼女はロス警察の知り合いに相談してスペンサーを紹介されのだ。

 
 捜査を引き受けたスペンサーは、ポットショットの町を訪れて<ザ・デル>の頭目プリーチャーと対峙する。もともと町はずれの鉱山跡にたむろしていたならず者たちを、数年前に流れてきたプリーチャーが組織化したことで町の脅威になったらしい。<ザ・デル>は木曜日になると町に出てきて、町中から「みかじめ料」をせしめていく。評判が伝わって、町の不動産価格は下落する一方だ。

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 <ザ・デル>の下っ端を叩きのめしたスペンサーに、町の重鎮たちは<ザ・デル>一掃を依頼する。スペンサーはこれも引き受け、相手が40人ほどいることからガンマンを集め始める。相棒のホークはもちろん、ボストン、ラスヴェガス、ロサンゼルスや前作「ハガーマガーを守れ」で知り合った南部ジョージアのガンマンまで呼び出して、「Magnificent Seven」が揃うことになる。7人は町はずれに一軒家を借り、自動小銃や散弾銃をしこたま運び込んで作戦を練る。
 
 一方スペンサーはメアリの夫の殺人事件も追っていて、関係者の過去を洗い続ける。その過程で、被害者スティーブやその妻メアリの人物像(スポーツマンと知的な女性、理想的な美男美女)が崩れ始める。派手な銃撃戦はクライマックスではなく、その後にスペンサーが真犯人とその動機を暴くシーンがミステリーの醍醐味だ。
 
 長いシリーズの中でちょくちょく顔を見せる個性的なガンマンたちが、一堂に会したのが本作(2001年発表)。21世紀になっても意気軒高なスペンサーシリーズの魅力は、ワイルドなシーンと並んで登場人物同士のとぼけた/しゃれた会話にある。加えて本格ミステリーの手法と、私立探偵ならではの勝手な解決(必ずしも犯人を起訴まで持ち込む必要がない)があって、シリーズ中でも屈指の傑作だと思います。