新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ボストンのビジネスウィメン

 前作「ポットショットの銃弾」で派手な銃撃戦を見せたスペンサー、今回はホームグラウンドに戻って富豪の銀行家殺人事件に挑む。銀行オーナーのネイザン・スミスは58歳、ベッドルームで全裸の射殺体で発見される。凶器は珍しい.40口径の拳銃。寡聞にしてこんな銃があることを知らなかった。普通は.38口径か.45口径だ。

 

 現場から銃は見つからず殺人事件として捜査が開始され、第一容疑者となったのが30歳の若妻メアリ。金髪でそこそこの美人だが、髪の毛の下には脳細胞はほとんどないと周囲に思われている。別のフロアでひとりでTVを見ていたと主張し、アリバイがない。外部から侵入した形跡もなく、あいまいな供述を繰り返すのでついに逮捕されてしまう。別件で収監されている男ジャックが、メアリの夫殺しを持ちかけられて断ったと証言したのだ。

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 メアリの弁護にあたるリタから捜査依頼を受けたスペンサーは、この年の離れた夫婦の過去を洗い始める。メアリは白人の貧民街育ち、目立たたない娘で友達もほとんどいない。脳細胞がないのは、子供のころからだったようだ。そのようなメアリが目立つのは、「ガラスの天井」を破った多くの女性たちが登場するから。

 

 赤毛の美女リタは、スペンサーを誘い「まだあんなユダヤ女と暮らしてるの」という。ユダヤ女ことスーザン・シルヴァーマン博士も、「赤毛のふしだら女」とリタをののしる。スペンサーは「結婚こそしないが、25年間ウチは一夫一婦制だ」と逃げる。そのほか、ジャックの弁護をするアンも父親の事務所で働く敏腕弁護士だ。本書の発表は2002年、女性の進出が盛んな東海岸では要職のかなりの部分を彼女たちが占めている。そんな人たちに取り囲まれて、メアリは自分の潔白も示すことができずにいる。

 

 例によって嗅ぎまわるスペンサーに襲い掛かるヤカラが出てきて、死者もどんどん増えていくのだがその結果真相が見えてくるのがこのシリーズのおきまりである。シリーズ中の傑作とは言えないが、スペンサーが登場して30年近く、ボストンの街で「女性の格差」が広がった感じはありますね。