新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ドイルの「地球最後の日」

 シャーロック・ホームズものでおなじみ、サーの称号も貰ったコナン・ドイルはSFものにも興味を示しもう一人の主人公チャレンジャー教授を生み出した。長身でノーブルなホームズに比べ、類人猿と間違えられそうな外観、短躯で毛むくじゃらという人好きされそうもないのがチャレンジャー教授。その上毒舌極まりなく、学会には敵だらけという破天荒な人物である。

 
 前作「失われた世界」では、南米の奥地で恐竜・類人猿・未開人の3世代(?)が入り交じった土地に着いた教授らの冒険を描いたものだった。本書はその冒険から帰った4人組(教授、教授の学会の敵サマリー教授、スポーツマンのジョン卿、ガジェット紙のマローン記者)が、何年か後に再び集結する。

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 きっかけになったのはチャレンジャー教授の手紙、地球全体が何かに覆われようとしているから高地にある教授の家に「酸素ボンベを持って集まれ」というのだ。教授は太陽のスペクトルの異常から、地球の異変を感知したのだ。教授はブドウの一粒を地球に見立て、ブドウ粒が消毒されようとしているという。ブドウの表面に付いた細菌は死滅するが、細菌は人類を表しているというのだ。
 
 地球はエーテルの海に浸されようとしていて全人類の死滅が近いが、高地にあるチャレンジャー家で酸素ボンベを使えば、最後の日を目撃することができると教授は言う。4人は教授の妻を加えた5人は、窓から小鳥が落ちたり通行人が倒れるのを見る。また交通事故や火事も頻発する。一晩経ち最後の酸素ボンベもカラになったころ、地球はエーテルの海を抜け5人は生き延びたことを知る。しかし、山の麓も車で出かけた都会も死者の山である。持ち主の亡くなった財物は摂り放題だが、5人は生き延びた嬉しさも忘れて暗澹たる気分になる。
 
 「失われた世界」に比べて、非常に短い(約140ページ)中編だが、テーマがテーマだけに、いろいろなエピソードは付けられなかったのだろう。ドイルはもうひとつ「霧の国」という心霊主義の作品を書いてる。ホームズの明快な推理ものからファンタジーや心霊ものへの転身、論理尽くしに疲れてしまったのでしょうね。