新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

殺し屋同士の死闘

 作者のクリス・ホルムは、エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン(EQMM)出身の作家。本書以前にクライムファンタジーと評価される「コレクター三部作」を発表している。読んだことはないが、サイコサスペンスのようなもの(僕のあまり好きでないジャンル)らしい。

 
 しかし本書はれっきとした「戦闘小説」である。アフガニスタンで特殊作戦に従事していたマイクル・ヘンドリックスの部隊は、ゲリラの待ち伏せ攻撃にあって全滅する。生き残ったのは、両足を失った技術兵レスターだけ。マイクルは意識を回復した後徒歩でアフガニスタンを脱出するが、軍では戦死として扱われた。
 
 過去を消したマイクルは、車いすで酒場を始めたレスターの助けを借りて、殺し屋稼業を始める。これが普通の殺し屋ではない。殺し屋だけを専門に狙い、殺し屋に襲われるはずだった人から報酬を得るというビジネスモデル。レスターが犯罪組織の通信を傍受するなどして情報を得てくれるので、誰が誰をいつ襲うのか想定できるのだ。今日も犯罪組織の恨みを買った不動産屋(トランプ先生とは似ていない)を殺そうとした殺し屋を遠距離狙撃で仕留めた。
 
 すでに何件もの「殺し屋殺し」を実行していて、その実績を聞くと多くのターゲットは彼に「殺し屋殺し」を依頼する。マイクルの申し出を断った人物の末路を話すと、商談成立に効果があるようだ。しかし実績を積むと言うことは、犯罪組織や官憲の注意を引くことにもなる。FBI特別捜査官のシャーロットは彼を「ゴースト」と呼んで追及を始めるし、犯罪組織の側もこの殺し屋殺しの正体を突き止めて消せとフリーの凄腕殺し屋エンゲルマンを雇う。
 
 マーク・グリーニーほどの戦闘シーンの迫力はないのだが、出てくる殺し屋の迫力は凄まじい。第一章で仕留められてしまうクルスにしても、顔面や足に傷を負いながら残忍な殺し方を誇示している。少し脳がたりないとマイクルにコケにされるものの、レオンはマイクルと戦いながら(表紙にある)H&KMP5を撃ちまくって目標含め20人以上を殺す。

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 しかしそれらをしのぐのが、一見やさ男でおだやかな口調で話すエンゲルマン。彼こそ「生まれついての殺し屋」で、殺すことそのものを楽しみ、それにしか興味がない男である。マイクルの正体に迫るときや、自らが逃走するとき、容赦なく人を殺しまくる。予想通りクライマックスは、マイクルとエンゲンルマンの一対一対決だが、ナイフ1本だが待ち伏せできるマイクルか、完全武装のエンゲルマンか、息を呑む対決シーンである。
 
 相当面白い「戦闘小説」である。作者は「殺し屋の殺し屋」という発想から、、この1編を書き上げたのだと思う。ただ、どうにも「殺し屋に狙われている人からの依頼で殺し屋を始末する」成功報酬モデルというのはあり得ないように思う。その殺し屋を始末してもらっても、また新しい殺し屋がくるかもしれない。それからは守ってくれないというのですから・・・。