新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ルイジアナ、1943

 第一次世界大戦も、第二次世界大戦も、ドイツ海軍にとっての舞台は北大西洋だった。第二次世界大戦において大西洋に放たれた船の大半はUボートだった。日本海軍とは戦術思想の異なるドイツ海軍は、潜水艦の使い方を通商破壊戦に絞っていた。

 
 本書はジョン・マノックの4作目の長編小説。作者は軍務の後、潜水士の仕事をしていて、作家に転じた。これ以前の3作は純粋な潜水アドベンチャーで、本書はそれからの脱皮を図ったと思しき第二次世界大戦を背景にした、海洋冒険小説である。
 
 主役はⅦC型UボートU-113号。潜航時排水量870トン、乗員50名前後、最大速力18ノット。武装は魚雷発射管5門、88mm砲、20mm機関砲等。ドイツ海軍デーニッツ提督は、このような小型潜水艦を北大西洋にバラまいて商船を狙わせた。1942年初頭に米国が参戦すると、その活動範囲はさらに拡大した。1943年夏、U-113号はカリブ海で通商破壊活動を続けていたが、補給潜水艦との会合中に米軍機の奇襲を受けてしまう。
 
 補給潜水艦U-496号は最初に爆沈、僚艦U-395号も撃沈され、U-113も推進軸や燃料タンク、通信設備に重大な損傷を受けてしまう。このままでは本国への帰投はおろか他の潜水艦との会合もままならない状況になり、シュトルマー艦長は米国ルイジアナの湿地帯に隠れて艦の修理を考える。

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 南部ルイジアナミシシッピー川河口周辺はフランス語を話すケイジャンと呼ばれる人たちのテリトリーで、中には金次第だがドイツに協力する者もいたのだ。シュトルマー艦長は、付近に沈んでいるはずのU-115号から推進軸を取り出してU-113を修理することにした。ほとんど動けない船、協力者といえ油断の出来ないケイジャンたち、捜索をしてくる米軍機の狭間でシュトルマー艦長とクルーの絶望的な闘いが続くことになる。
 
 作者が潜水士だということで、沈船から推進軸などの部品を引き上げる作業のシーンには迫力がある。戦闘シーンは少なく、戦記ものというよりはシュトルマー艦長やボック先任士官の冒険物語だろう。不気味な魔法使いエクセルおばあさんなど、米国のケイジャンたちの生態も生き生きとしたものだった。ナチスへの批判も重要な伏線になっていますが、それが無くても十分プロットは成り立ったと思います。