クライブ・カッスラーは「NUMA」のダーク・ピットシリーズを卒業していくつか新機軸を出したが、その中でも面白いと思ったのが、「大破壊」のアイザック・ベルのシリーズ。「大破壊」はレイル・バロンと呼ばれた米国を覆う鉄道網の王者争いの終盤、それに介入したテロリストとベルが戦う話だった。
これが面白かったので、このシリーズの第一作「大追跡」を探して読んでみた。冒頭から浮浪者に変装した「強盗処刑人」が、アリゾナ州の田舎町の銀行に押し入る。この処刑人は血も涙もなく、行員はもちろん偶然銀行に居合わせた女性にまで、とどめを刺す。
すでに20の銀行が襲われ、40人以上が犠牲になっている。まともに犯人を見た者はみんな殺されてしまうので、人相も良く分からない。この難事件は「ヴァン・ドーン探偵社」に持ち込まれ、ヴァン・ドーンはエース探偵のアイザック・ベルに事件を担当させることにした。
本書には2つの重要な社会インフラが登場する。ひとつは、「大破壊」でも扱われた鉄道。もうひとつは銀行である。実は「強盗処刑人」クロムウェル兄妹は、カリフォルニア州第二の銀行「クロムウェル国法銀行」の経営者である。
彼らを追跡するベルも、実はボストンの大銀行の頭取の息子で、自らも大富豪である。ベルは追跡にあたって、気前よく身銭を切って協力者を得たり追跡用の道具を入手する。時代は1906年、鉄道が駅馬車に代わる最新の旅行手段になっていて、飛行機は営業に至っていない。自動車も富裕層は保有するようになっているが、道路の整備は十分ではない。
本書には2度、ベルがクロムウェル兄妹を追跡するシーンがある。クロムウェル兄妹は、貨車を改造し豪華リビングにした車両に身を隠して西部を縦横に荒らしまわっている。これをベルらは1度はロコモービルというスポーツカーで、もう1度はアトランティック型の機関車を駆って追いかける。
600ページほどの大作だが、文字が大きいせいもあって割合早く読み終えた。ベルのロマンスなどやや冗長なところもあるのだが、全体的にはスピーディで意外性あるストーリー展開である。何より作者の「古いメカ」に対する愛着が感じられる。このシリーズ少なくとも5作あるそうですから、もっと探してみましょう。