新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

エスプリ・サスペンス

 フランスミステリーで悪女ものといえば、カトリーヌ・アルレーが思いつくが、本書のボアローナルスジャックも古典の代表作家である。昨日紹介したモーリス・ルブランや、メグレ警部を生んだジョルジュ・シムノンくらいしかフランス作家を読んだことが無かった僕だが、アルレーとボアローナルスジャックだけは読むようになった。

 

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 ピエール・ボアローとトーマ・ナルスジャックは、第二次世界大戦終了までに2人共フランスの推理小説大賞を別々に獲得していたが、合作を始め1952年に本書を発表した。登場人物は実質的に3人だけ、これは慣れないフランス人の名前を識別する上で助かる。また映像化もしやすく、1955年に映画化もされている。
 
 40歳近くなってうだつの上がらないセールスマンのフェルナンは、従順なだけでつまらない妻ミシェルに飽き、冷酷な女医リュシェーヌと不倫関係にある。週末以外は仕事で家を空けることの多いフェルナンは、リュシェーヌの企みに乗ってミシェル殺害に着手する。
 
 まず相互に200万フランの生命保険を掛けた後、2年の冷却期間をおいて犯行に及ぶ。医師であるリュシェーヌの処方した睡眠薬を、出張先のアパルトマンに呼び出したミシェルに飲ませ浴室で溺死させる。2日間、いつものように出先(港町ナント)で過ごしアリバイを作った後、2人は夜通し車で死体を自宅(パリ近郊の街のようだ)に運び水場に捨てた。これで、ミシェルは水の事故で死に、フェルナンにはアリバイができるわけだ。
 
 一旦ナントに戻り、いつものように週末自宅に帰って来て「妻の事故死体」を発見すればいいのだが、フェルナンが戻ってみると死体がない。死んだはずのミシェルから手紙が届いたり、(いつものように)夕食を作って置いてあったり、挙げ句パリに住む義兄のところにミシェルが現れたりする。これは亡霊か、ゾンビか、はたまたフェルナンの妄想か。リュシェーヌには冷たくあしらわれ、フェルナンはどんどん追い詰められていく。そして破滅が・・・。
 
 不倫の上妻を殺して保険金を得ようというフェルナンが悪いのだが、物語が進めば進むほど彼が気の毒になってくる。本当にワルなのはリュシェーヌの方で、表紙の絵も題名もそれを表している。この翻訳が日本で出版されたのが1955年。うん、このくらいの訳文なら読めますね、フランス語の原書でも。