新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

エラリー・クイーン最後の事件

 1929年「ローマ帽子の謎」でデビューした作家エラリー・クイーンと探偵エラリー・クイーン。1971年発表の本書が、最後の事件になった。ミステリー通ならだれでも知っているように、作家エラリー・クイーンは2人のいとこ同士フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの合作ペンネームである。本書の発表後リーが亡くなり、40年以上続いた合作はできなくなった。

 

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 2人の合作方法は「ひとりがストーリーを考え、もうひとりが執筆する」と言われているが、具体的な作業については公開されていない。ダネイは編集者としても手腕を発揮し、EQMMという雑誌等を通じて多くの作家を発掘した。そのことから僕は、ストーリーを担当していたのはダネイだったと思う。
 
 意味ありげな題名は、母体の子宮のことを指している。9カ月の間に発想され、計画され、ついに殺人事件として表に出るまでが、妊娠期間に相当していることを示してもいる。インポチューナ産業を一代で大企業に押し上げたニーノ老人は、金にモノを言わせて若い美女バージニアを妻にする。しかし彼は妻とベッドを共にせず、バージニアはニーノの若いイケメン秘書ピーターに惹かれていく。
 
 まずニーノの弟が殺され、疑いを掛けられたもうひとりの弟が情緒不安定になって自殺する。そしてバージニアに遺産相続権が成立した日にニーノ老人は撲殺される。疑いは当然のように相続人であるバージニアと、彼女との仲を嗅ぎつけられたピーターに向けられる。
 
 本書の謎のモチーフは「9」という数字である。ニーノ老人はこの数字が大好きで、自分の誕生日を9月9日と偽ったり、重要な決定をするのは9日、18日、27日に限るという徹底ぶり。苗字も9文字に変えたり、666と背表紙にある本は上下さかさまに本棚に置くほどだ。題記の懐妊期間も9カ月である。
 
 晩年のクイーンの諸作は、マニピュレーションとモチーフの絨毯爆撃が特徴だ。本書でもこの2点はぞんぶんに盛り込まれていて、延々続く「9」のモチーフに読者は圧倒される。往年の鮮やかさこそ影を潜めているが、本書では真犯人の名前を明かすのは最後の1行とデビュー2作目「フランス白粉の謎」で試した技を再び披露している。どこまでも本格らしい本格を目指した、彼ら(エラリー、ダネイ、リー)の最後の事件でした。