新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スペースオペラ、ここに始まる

 いわゆるサイエンスフィクション(SF)の古典と言えば、フランスのジュール・ヴェルヌ月世界へ行く」、イギリスのH・G・ウェルズ宇宙戦争」などが挙げられるだろう。SFっぽいものも残したE・A・ポーはアメリカ人だが、アメリカで始祖と言えば本書のE・R・バローズだろうと思う。


        f:id:nicky-akira:20190428201227p:plain

 
 バローズは1885年生まれ、父親は南軍の少佐だったそうだが本人は軍人になれず種々の職業を転々とした後、本書(1917年発表)で作家の道に入った。主人公ジョン・カーターも南軍の大尉という設定で、アリゾナの丘の上から超常現象によって火星に運ばれる。火星は地球とは異なる文明を持ち、科学技術では地球を上回るヒューマノイドが覇を争っていた。
 
 人種は大きく分けて2つ、大柄で4本腕の緑色人と地球人に似た赤色人。緑対赤の構図ではあるが、双方とも複数の部族があって人種内で対立をしているし、各皇朝も跡目相続などで内紛含みである。火星は重力が薄いので、地球人より筋力は弱い。火星人が地球に来たら、立ち歩くのも難しいかもしれない。緑色人から見れば小柄なカーターでも、腕力や跳躍力は並外れたものを持っている。
 
 個人の戦闘能力に加え軍事知識も豊富なカーター大尉は緑色人の社会に受け入れられるが、赤色人の美しい捕虜(表紙の女性)と恋に落ちる。彼女こそは、赤色人最大部族の皇帝の娘だった。長剣や短剣を使った決闘、6本脚の馬に乗っての追跡劇、恋のさや当てからの殴り合い、王位を狙う陰謀などなど西部劇(ホースオペラ)に似た物語が展開される。
 
 スペースオペラというものを初めて読んだのでちょっとびっくりしたのだが、登場人物もエピソードもストーリー展開も全てがステレオタイプ。逆に言うと、この時点で完成されてしまっていたのかもしれない。バローズは、火星シリーズをあと10作、ターザンものを20作残しました。読まないでコメントして恐縮ですが、表紙を見るだけでストーリーは想像できますね。