新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

死期の迫る名探偵

 エラリー・クィーンの絶頂期に書かれた4作のうち、「Xの飛檄」と「Yの悲劇」に続くのが本書(1933年発表)。悲劇4部作の3作目にあたる。株式仲買人ロングストリートがトラムの中で毒殺された事件、名家ハッター家の事件を解決した名優ドルリー・レーンが、本作にも登場する。

 

 発表年は1年しか違わないが作中の時間は10年が経っていて、レーンは70歳の誕生日を迎えている。前2作で地方検事を務めていたブルーノはニューヨーク州知事になり、警察を指揮したサム警視は引退して私立探偵となっている。ヨーロッパ帰りのサムの娘ペーシェンスが登場し、本書から2作のワトソン役を務める。ただ単なるワトソンではなく、自らもレーン並みの推理能力を発揮する美女だ。

 

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 事件の発端は、サム探偵事務所に持ち込まれた依頼。共同経営者フォーセット博士が不正をしていないか探ってほしいという内容だったが、博士は暗黒街ともつながりがあり弟は上院議員という大物。サム親子が内偵をはじめたところ、上院議員が刺殺されるという事件が起きる。容疑者は当日アルゴンキン監獄を出所したばかりの前科者。しかしペーシェンスは、彼は無実だと信じレーンに助けを求める。

 

 レーンは70歳を迎えてもかくしゃくとしているが、びっくりするほどやせてしまい、「医者たちが五体をつぎあわせて造物主のところに戻すのに苦労している」と自嘲するほどだ。しかしレーンは、事件の話を聞き「その男は無実だ」と言ってハムレット荘を出て事件に介入する。しかしその試みは成功せず、前科者は有罪判決を受けて収監されてしまう。さらにその前科者が脱獄した後、今度はフォーセット博士が殺され彼は2つの殺人で有罪となり死刑を宣告される。彼を守ろうとしたレーンとサム親子は、死刑執行までに真犯人を挙げなくてはならなくなった。

 

 クイーン流の演繹推理を展開するには、容疑者をある程度限定しなくてはいけない。ロングストリート事件ではトラムに乗り合わせた人、ハッター家の事件ではその家の関係者という枠ができたのだが、今回は「死刑執行の場」を作者は設定している。評論家の中には、作者が1章を割いて一人の死刑囚が監獄で電気椅子で処刑されるシーンを描いているのを、死刑廃止論だという人もいる。しかし、僕は上記の「枠」を設定するために必要だったことが大きいと思っている。

 

 4部作のフィナーレに向けて、レーンの病を押しての活躍とペーシェンスの英知を描いた本書。久しぶりに読んでみて、懐かしさがあふれました。