新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名探偵明智小五郎

 日本のミステリー界の先駆者と言えば、この人を措いて他には考えられないのが江戸川乱歩。ミステリーの創始者であるエドガー・アラン・ポーの名前をもじったペンネームで、第二次世界大戦前から欧米ミステリーを紹介している。特に気に入ったロジャー・スカーレット「エンジェル家の殺人」は、翻案小説として「三角館の恐怖」の題名で発表している。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/04/03/000000

 

 乱歩の後に、横溝正史高木彬光鮎川哲也などの大家が続いたのも、先駆者乱歩の功績あったればこそとは思う。ただ乱歩自身の小説は、本格ものは多くない。どちらかと言えば幻想的で、猟奇的なものが多い。名探偵の代表格と言われている「明智小五郎」だが、その登場作品は多くないのだ。その少ない作品群から、短編4作、中編1作を収めたのが本書。

 

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 時代的には戦前のものから戦後まで、かなりの開きがあるようだ。「D坂の殺人事件」でデビューした時は容疑者にされていた明智が、「地獄の道化師」では押しも押されもせぬ名探偵になっている。「少年探偵団」の小林少年も助手として登場する。

 

 久しぶりにこの5編を読んでみて、懐かしさもあったものの「明智小五郎」という名探偵を高くは買えなかった。確かにトリックとその推理による解決は面白い。ただ問題として、作者の文体や表現、ストーリーの進め方がいまいちなのだ。過度に恐怖をあおる怪奇小説っぽい部分も多いし、三人称視点で話を進めながら時々「楽屋落ち」のような一節が現れる。

 

 この中では、「心理試験」の一編が僕の心に残った。試験官が言葉を投げ、連想できる言葉を返させる形式の試験である。被検者が回答に要した時間も記録される。2人の容疑者に同じ言葉を投げ、回答とそれに要した時間のリストが読者に提示されている。試験官が検査結果で迷っていると、明智が事件に直接関係はないと思われる単語から真相を推理して見せる。

 

 普通の乱歩全集では、明智小五郎ものは方々に散らばっているのが普通だが、本書にはそのエッセンスが集まってる。そういう意味では、貴重な1冊でしたね。