新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

旧式兵器の競演

 「超音速漂流」でデビューしたトマス・ブロックは、米国大手航空会社のパイロットである。現職のうちに作家デビューを果たした。職業柄、民間航空機のハイジャックものが得意なのだが、本書(第三作)では本格的に軍事知識を盛り込んで、大規模犯罪とこれに立ち向かう民間航空機のパイロットや乗客の姿を描いている。

 

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 トランス=アメリカン航空が米国内で移送する15,000ドル相当の金塊奪取を企む男マクルアは、複雑かつ綿密な計画を立てる。まずイラン海軍の将校をだまし、同国の潜水艦シャラフ号の乗っ取りに成功する。シャラフ号はもともと米国海軍のディーゼル潜水艦トラウト号で、旧式になってイラン海軍の供与されたものだ。この何十年いがみ合っている両国だが、蜜月時代もあったのである。
 
 次にマクルアはサウスカロライナの港に係留されている記念展示艦ヨークタウンを洋上に出す。いずれも、元潜水艦乗りや記念艦の管理人などを巻き込んでの荒技である。最後にマクルアはトランス=アメリカン航空のDC9の後をリアジェットで追う。機内に仕掛けた爆弾を遠隔操作で爆発させるぞと脅し、機を海へと向かわせる。機長オブライエンは負傷した副操縦士に替わってシートについてくれた民間パイロットジャネットの助けを借りて、マクルアたちの企みと戦う。
 
 マクルアの狙いは、DC9を洋上のヨークタウンに着艦させ、金塊を降ろして潜水艦に積み替え、遁走するというものだった。マクルアは犯行の過程で利用した者たちを容赦なく始末していて、DC9の100名を越える乗員乗客もヨークタウンに閉じ込めたまま魚雷で沈めてしまうつもりだ。旧式兵器ばかりとはいえ、洋上プラットフォームとしてDC9を着艦させるならヨークタウンは使えるし、逃走するには静粛性の高いディーゼル潜水艦が都合がいい。
 
 マクルアのバラ撒いた欺瞞にすっかり惑わされた米軍の対応は遅れ、オブライエンたちは自らを守るために戦わなくてはならなくなる。徒手空拳の彼らだったが犯人グループにだまされていたことに気付いた記念艦管理人の助力により、反撃の手段を見つけることができた。それは格納庫に展示されていたB-25「ミッチエル」。
 
 ここに出てくるヨークタウンはエセックス級の空母、ミッドウェイで沈んだ艦の名前を冠して就役したもの。邦題「盗まれた空母」は適切なものではなく、原題「Forced Landing」の方がずっとぴったりしている。旅客機を空母に着艦させる犯人グループの狙いと、B-25を発艦させるオブライエンたちの試み、この2つをサスペンスフルに描いた傑作だと思いました。