新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ベレスフォード夫妻、最後の挨拶

 1922年に「秘密機関」でデビューしたおしどり探偵、トミー&タペンス・ベレスフォード夫妻。1973年発表の本書では70歳代もなかばになり、リューマチがどうのとか背中がつっぱると嘆いている。10歳代の孫もいる二人だが、冒険心は全く衰えていない。

 

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 物語は、二人が長く空き家だった家に引っ越すところから始まる。前の家に所蔵していた本を整理し「本当に必要なものだけ」(タペンス)持ってきたのだが、新居の書庫にも多くの本が残されていた。最初はブツブツ言っていたタペンスだが、元々本が好きで、子供のころ読んだ児童書もあったことから嬉々として読み始める。探偵としてのエラリー・クイーンも「愛書狂」と称しているが、作者のクイーンもクリスティも書籍好きなことは疑いがない。
 
 タペンスがその本の中に「メアリ・ジョーダンの死は自然死ではない」との暗号文を見つけたことから、また諜報戦に巻き込まれる(というか首を突っ込む)。メアリとは誰なのか、暗号を残したのは誰なのか、またいつの時代のことなのか、二人と愛犬ハンニバルの冒険が始まるのである。
 
 二人は第一次世界大戦が終わったころから「明るいスパイ活動」を始め、ヒトラーが倒れてからも当局との関係は保っていた。タペンスは土地の老人に聞き込みをし、トミーはロンドンの昔の諜報仲間に会いに行く。

 登場人物の多くが「後期高齢者」。発表当時作者のアガサ・クリスティーは83歳であり、半世紀以上前の事件に挑む自分の分身であるトミー&タペンスの姿を温かく描いた。本書は彼女の64作目の長編であり、最後の作品になった。3年後の1976年に彼女は永眠したので、本書はトミー&タペンスだけでなくクリスティー女史自身の最後の挨拶にもなったのです。