新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

百科事典による国際政治

 今まで「黒後家蜘蛛の会」などのミステリーを紹介したアイザック・アシモフだが、いかにミステリー好きとは言え本業はサイエンスフィクションである。数ある著作の中でも、傑作と言われるのが前回紹介した「鋼鉄都市」と本書から始まる「銀河帝国興亡史」だろう。

 

 確か高校生の時に読んで、あまりいい印象を持たなかったのを覚えている。表紙の絵にあるような宇宙巡洋戦艦が暴れまわる話かと思ったら、ドンパチなど起きやしない。登場人物の会話ばかりでページが過ぎていったからだ。それが45年を経て読み返してみると、全く違う風景が広がっていた。

 

 銀河紀元歴で120世紀、隆盛を極めた帝国は周辺から腐り始めていた。天才心理歴史学ハリ・セルダンは、帝国の崩壊は避けられずその後30,000年の暗黒時代が来ると予測した。彼は暗黒時代を縮めることは可能だと考え、辺境の惑星に「科学財団:ファウンデーション」を設立して10万人の科学者とともに移住する。

 

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 財団が「百科事典」とその背後にある技術・文明を維持することで、暗黒時代を1,000年に縮められるとセルダンは考えたのだ。銀河帝国皇帝やその周辺は、セルダン一派を危険分子と考えたが、辺境に追いやることで安心してしまった。その後セルダンの予言通り、帝国は崩壊し皇帝は名ばかりになってしまう。

 

 この腐敗から崩壊へ至る部分の例示や表現はアシモフ一流の皮肉めいたものなのだが、これが現代の国際政治(トランプ政権誕生、Brexit、文政権の暴走、欧州の移民排斥等)に似ていて笑えない。1951年発表の本書だが、アシモフは70年後の未来を予測していたかのようだ。

 

 セルダンの死後ファウンデーションのある惑星ターミナスの周辺では、軍事力を誇示する星たちが競いターミナスを支配下に置こうとする。軍事力を全く持たない(憲法上の日本のような)ファウンデーションだが、百科事典の知識を独占していてこれらの「野蛮星」に対抗する。

 

 ターミナスに侵攻しようとした星の為政者は、自星の有識者の静かな叛乱で玉座を失ってしまうのだ。中でも「原子力」の制御法を身に着けているのは、ファウンデーション関係者だけなので、彼らのいない星では人口の半分を失う事故まで起きる。

 

 アシモフの科学至上主義のような皮肉一杯の物語、とても面白く読みました。いい政治教本とも考えられます。あと2冊買ってあるので、楽しみです。