新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

サルディニア島の弁護士

 今年の新年の旅行はローマだった。島のワインを呑みに行ったような旅だったが、やっぱりシチリアサルディニアのものは美味しいと思う。帰国して「そういえばイタリアン・ミステリーがあったな」と探し出したのが本書。なんとサルディニア島を舞台にしたものだった。

 

 作者のマルチェロ・フォイスはサルディニアのヌーオロ(サルディニア文学のメッカだそうな)生まれ、ヌーオロ育ち。本書には2編の中編が収められているが、いずれも1900年頃のサルディニアが舞台で、探偵役のブスティアヌ弁護士は実在の人物である。訳者によるとサルディニア方言が随所にあって、翻訳には大変苦労したらしい。

 

 なにしろ今はフランス領である隣のコルシカ語の方が、むしろイタリア語に近いという。イタリアは、他の欧州諸国にもまして地方色が強い。本書でもサルディニア生まれのブスティアヌ弁護士と本土から来た警察署長が、土地の独自性や署長のよそ者ゆえの勘違いを再三話し合っている。

 

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 最初の中編「いかなるときも心地よきもの」は、弁護士が昼食後出掛ける長い散歩のこと。難事件を考えるときも恋に悩むときも、彼は町はずれの自然の中を歩き続ける。解説に「ミステリというより普通小説」とのコメントがあるように、謎解きそのものは単純である。しかしサルディニア島の自然描写は、とても美しい。

 

 またローマで食べておいしいと思ったソーセージ(サルシッチャという)や、家畜の臓物料理なども顔をだすから面白い。何種類ものお酒(蒸留酒だろう)の名前も出てくるが、どんな酒なのかよくわからない。登場人物の多くは純朴で、盲目的に息子の無実を信じる母親や容疑をかけられても頓着しない青年などによって、弁護士は悩ませられる。

 

 小説のテクニック上の問題としては、主人公の弁護士が時々一人称で出てきて読者を混乱させる。登場人物の名前になじみがないこともあって、「これって誰の事?」と首をかしげることもしばしばだ。イタリアのミステリというだけで珍しいのに、サルディニアという孤島の風情が詰まった1冊、ほのぼのとした気分で楽しめましたよ。