新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

乱歩賞作家にあこがれたころ

 日本の探偵小説界の重鎮江戸川乱歩が自らの還暦(1954年)を機に設立したのが「江戸川乱歩賞」、三年目から長編ミステリーを公募するようになり、昨年も300編以上の応募があった。ミステリー大好き高校生だった僕は、いつかはこれに応募し、受賞者になりたいと思っていた。


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 そんなころ乱歩賞の19期の大賞を受賞したのが本書「アルキメデスは手を汚さない」。舞台は大阪の高校、登場人物の多くがこの高校の2年生である。同世代の僕としては、非常に興味をそそられる作品だった。
 
 美しい女生徒が子宮外妊娠で死亡、怒った建設会社(土建屋ともいう)社長の父親は、娘を穢した男が同級生の中にいると見て調査を始める。7日目の法要に「容疑者」を集め、昼食の席で糾弾するが逆に高層建築を建てその陰で太陽を奪われて死んだ老婆の話で切り返され激怒する。
 
 そのころ急に法要に呼ばれた生徒の弁当がセリに掛けられていたのを、セリ落とした青年が中毒症状を起こす。弁当に毒が掛けられていたのだ。さらに中毒で入院していた青年の家で殺人事件が起き、事件は混とんとした様相を見せてくる。
 
 400ページ近い本書の、300ページまでは普通のミステリーである。簡単なものながら時刻表トリックも密室に近いシチュエーションもある。しかし事件の真相が高校生たちの口から語られる最後の100ページ弱は、非常にユニークなものだ。
 
 英語劇でアルキメデスを取り上げたことから結成された「アルキの会」は、アルキメデスの理論家・学者としての純粋さを主張する女生徒の思想に染まっていた。これを上記のセリを企画し、株式投資にまで手を染めた同級生は「アルキメデスの発明した殺人機械は多くのローマ兵を殺した。それでも彼は手を汚さなかったと言うのか」と否定する。
 
 高校生の性へのあこがれと畏れ、理想主義と現実とのギャップをテーマにした青春小説を、ミステリー仕立てで書いたのが本書だったと思う。今作者が執筆した年齢(52歳)を越えて読み返してみると、作者が言いたかったことは良く分かる。印象に残る作品だが、受賞・出版早々にTVドラマ化されたのがマイナスだった。未成年を中心にした性的なものや犯罪を描いていたためか、まるきり筋立て(犯人まで)が変わってしまい、作者の意図は骨抜きになってしまったのですから。