新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

顔認証プログラムが暗殺者

 作者のデイヴィッド・メイスンは、英国の近衛連隊の出身。特殊部隊にいたがどうかは分からないが、ドーハ戦争で武勲を立てて除隊、オックスフォードシャーの州長官も務めた。本書はデビュー作「バビロンの影~特殊部隊の狼たち」に続く第二作である。デビュー作は作者が良く知っている中東を舞台にしたもので、イラクサダム・フセイン大統領暗殺計画の話だった。非常にリアルな軍事スリラーだったので、本書も期待して買ったものだ。

 

 主人公は、前作同様民間警備会社のエド・ハワードと仲間たち。「ゴーン逃亡事件」で存在が一般の人にも知られるようになった、元特殊部隊員の会社だ。今度のミッションは、ワシントンDCに設置されると思われる、「暗殺装置」がいつどこで誰を狙うかを調べること。

 

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 装置を仕掛けようとしているのは、旧東ドイツKGBにあたるシュタージの残党。彼らはハイテク企業から「顔認証プログラム」を盗み出して、武器とセットにしてホワイトハウス周辺に仕掛けようとしているらしい。あらかじめブログラムされた顔をカメラが捉えると、爆殺もしくは銃殺するというマシーンだ。

 

 この小説の発表は1996年、すでにインターネットはありカメラとコンピュータの連動もできていた。顔認証アルゴリズムも、研究段階から実用に向かっていたころだ。このあたり、作者の技術的なセンスが光る。

 

 シュタージは隠れ家を北朝鮮寧辺周辺に置いていて、ハワードたちは北朝鮮が一番厳重に警戒している基地の付近に潜入する羽目になる。手段としては「高高度降下低高度開傘」というパラシュート降下。よく空挺・特殊部隊ものに出てくる手段だが、その方法が詳細に書いてあってとても僕にはできそうにない。

 

 科学者と北朝鮮出身の女を連れた6人のハワード隊は、降下には成功するのだがそこから先は手違いの連続に悩まされる。一方、ワシントンDCでは大統領特別顧問を罠にかけたシュタージが、ホワイトハウスに「暗殺者」を仕掛けようとしていた。

 

 ずっとシュタージの狙う獲物が誰かは分からず、並行して描かれる英国の元首相の誘拐の意味も分からない。ただ武器の選択やその扱いは非常に細かい描写が続く。上下巻700ページ近い大作ですが、すぐに読めてしまいました。スピーディな展開とはらむ謎が魅力的です。第三作は見つけていないのですが、探してみますよ。面白いです。