新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大統領!Situationです。

 トム・クランシーは生涯で何人もの共著者を使った。戦略・作戦級ゲームデザイナーのラリー・ボンドに始まり、最後に戦術・戦闘級のチャンピオンであるマーク・グリーニーと組んだ。クランシーの死後も、グリーニー流の軍事スリラーを書き続けている。クランシーが中期に選んだ相棒が、本書で始まる「オプ・センター」シリーズのスティーブ・ピチェニック。ハーバード大卒の精神科医なのだが、後にMITで学び国際関係論で博士号をとっている。

 

 シリーズの主人公は、元金融ディラーで政治家経験もあるポール・フッド。良き家庭人として愛妻家でもある彼は、現職大統領が設置した危機管理機能を持つ「オプ・センター」の主題長官に就く。今回は新大統領就任に沸くソウルで連続爆発事件が発生、「オプ・センター」の韓国駐在員ドナルドの妻も犠牲になってしまう。その報を受けて担当官がホワイトハウスに連絡、「大統領!Situation(緊急事態)です」と言う。これを合言葉に、国防長官・CIA長官らと並んでフッドは大統領の前に引っ張り出される。

 

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 犯人はブーツの足跡、爆発物などから北朝鮮兵士とみられるが、反面わざとらしい手掛かりを残しているとも言える。特に「北の政府」は沈黙を守っているし、38度線などでも緊張は高まっていても即軍事行動に出る気配ではない。本書が発表された1995年には、ソ連は崩壊しベルリンの壁は崩れ、中国もさほど大きな軍事力を持っているわけではない。北朝鮮金日成が死んで金正日の施政下にあって、スカッド改ミサイルの「ノドン」こそ配備しているが、今のように大陸間弾道弾や核兵器を誇示しているわけではない。

 

 しかし第二次朝鮮戦争を回避するため、「オプ・センター」は特殊部隊であるストライカー・チーム(12名の分隊規模)を極東に派遣する。約400ページにわたって、テロを起こした軍人、北朝鮮の女スパイ、KCIA、妻を失ったドナルドの現地での暗闘や、ワシントンDCやソウルでの情報収集戦の模様が描かれる。そして最後の50ページは、他のクランシー作品よりは抑え目の戦闘シーンが展開される。もちろんステルス戦闘機F-117や韓国軍の毒ガスであるタブンなどが登場して、マニアを喜ばせている。

 

 僕としてはやや食い足りない面のあるピチェニックとの共著シリーズではあるが、並みの軍事スリラーよりは面白いのは確かです。まあ、他の作品も探してみましょうかね。