新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

素人探偵の事件への関わり方

 深谷忠記の美緒&壮シリーズは、2時間ドラマそのままの面白さがあってそれなりに評価できるのだが、雑誌編集者の笹谷美緒と数学者の黒江壮の2人では、官憲の捜査に関わるやり方が難しい。それをよく現したのが本書である。

 
 以前紹介したようにおしゃべり女と無口男のコンビは、なかなか絵(映像?)になると思う。本書の発表は1989年、いわゆる2時間ドラマが好評を博し始めたころで、本書もその原作として非常に面白い作品である。(寡聞にしてドラマ化されたかどうかは知らない)

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 南紀白浜のテーマパークで、毒物を注射されて某社重役の後妻が殺される。犯人と思しき不倫相手も付近で死体となって発見され、心中事件かと思われたのだが、遠く伊豆下田の女性絞殺事件がからんできて2つの事件の連続性が疑われるようになる。
 
 第一容疑者と疑われたのが、美緒の父(慶明大学数学科教授)の教え子で、下田出身の青年世良。彼の同級生が壮で、美緒と壮は事件に巻き込まれる。状況からみて世良が真犯人である可能性はかなり高いし、アリバイはあるのだがむしろその粗雑なアリバイ工作に壮は疑問を持つ。
 
 読者の視点では、和歌山県警と静岡県警の合同捜査に2人の素人探偵がクビを突っ込むのは自然な流れなのだが、いかに実績ある2人の素人探偵とはいえ地方警察の捜査に介入するのは難しい。ましてや、容疑者は2人の知人なのである。
 
 トリックはそこそこ面白いし秀作だとは思うのだが、日本の警察機構と素人探偵の関係の難しさを作者は悩んだのかもしれない。その後、このシリーズのほかに単発もののミステリーが増えていったように思う。乱歩賞候補にもなった「ハーメルンの笛を聴け」などは単発もののミステリーですしね。