新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ダルジール警視登場

 レジナルド・ヒルは英国のミステリー作家。1970年に「A Clubbable Woman」でデビューし、1971年発表の本書が第三作にあたる。日本への紹介は少し遅れ、1980年にハヤカワが本書を翻訳したのが最初である。街の名前は分からないが、ロンドンに近い海岸の町のようだ。そこの大学で起きた不思議な事件に、地元警察のダルジール警視とパスコー部長刑事のコンビが挑む。

 

 ダルジール警視は高卒のたたき上げ、仕事熱心ゆえか奥さんには逃げられてヤモメ暮らし。若い大卒のパスコー部長刑事は、まじめな警官だが女の子には目がない。本書の舞台である大学については、警視は(自分の経験していない)大学や教授会というものの混乱ぶりに眉をひそめる一方、部長刑事は可愛い女の子を見て悦に入っている。

 

 大学では5年前にオーストリアに出掛けた先で雪崩に巻き込まれ行方不明になった前学長アリソンの記念碑を修復することになり、掘り返してみたところ学長自身の白骨死体が埋まっていたことが分かる。記念碑の土台が埋められたのは、アリソンがオーストリアに出発した翌日。学長は実は出発しておらず、学内で死んでいたと思われる。

 

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 大学では学生自治会と教授会に軋轢があり、学生たちはドラッグも使って過激な集会や遊びを繰り返す。そんな中、今度は女子学生が死体で発見される。さらに生物学講師の家が家探しされ、本人も行方不明になる。どんどん深まる謎、連続する事件を追いながら、学びの場の実情を知ったダルジール警視は幻滅する。原題「An Advancement of Learning」は、フランシス・ベーコンの名著「The Advancement of Learning」のもじりである。

 

 裏表紙に作者の写真があるのだが、作風から見て粋な男性と思いきや「連続猟奇殺人犯(失礼)」のような風貌である。しかし、ダルジール警視ものでうるさいミステリー通から「第一級の筆力」「面白いし、プロットも巧み」と称賛を受ける一方、大学で犯罪小説の講座をもったり、ミステリーの評論でも評価が高い。

 

 確かに本書も面白かったのですが、ハヤカワで数冊手に入れた以外は作者の作品を見かけません。風貌以上に登場人物が多く読みづらい、人物の書き分けがあまりはっきりしないで混乱する傾向があり、日本の読者に受けなかったのかもしれません。