新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Science Fact小説の草分け

 新型コロナウィルスが暴れまわっているからというわけではないが、本棚から本書を引っ張り出してきた。作者マイクル・クライトンは、ハーバード・メディカルスクール在学中から小説を書き始め「緊急の場合は」(1968年発表)でデビュー、本書(1969年発表)でその地位を確立した。その後「ジュラシック・パーク」シリーズなど、幅広くかつ衝撃的な小説群を発表している。

 

 発表当時は米ソ冷戦、核兵器の危機があり宇宙開発も盛んになったころだ。宇宙から未知の生物が降ってきて、人類絶滅の危機が訪れるリスクが認識されていた。ウェルズ「宇宙戦争」のような事態が、起きる可能性があった。

 

 作者は知能を持った宇宙人よりは微生物・細菌のようなものの方が降ってくる可能性が圧倒的に高いと、作中でも述べている。もし万一宇宙生物がやってきて制御できない場合は、実験施設に閉じ込めたうえで施設そのものを備え付けの核爆弾で消し去る計画だった。

 

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 ある日人工衛星アリゾナ州の田舎町近くに墜落し、この町ではほとんどの人が即死した。死体にたかったハゲタカなども続々死んでしまう。米国政府は地球外生物の襲来に備えた「ワイルドファイア計画」を発動する。上記実験施設に招集されたのは、細菌学者・微生物学者・病理学者・外科医の4人。彼らは被害を受けた町に防護服を付けて降り立ち、二人だけ生きていた赤ん坊と老人を実験施設に連れ帰る。

 

 450ページのうち、実験施設にどのような設備がありそれをどう使うか、特に二重三重の防疫体制の記述が延々続く。作者はSF小説は「Science Fiction」ではなく「Science Fact」の時代に入ったと言っている。それを裏付けるような緻密さだし、巻末に膨大な参考文献が示されているなど、やはりFictionではない。

 

 町の人たちは、瞬時に血液が凝固して死に至っている。実験に使ったネズミやサルも即死する。しかし、泣き続ける赤ん坊とメチルアルコールを呑んでいた老人だけは生きている。なぜ2人が助かったのかという大きな謎はあるが、各所にミステリー手法による小さな謎がちりばめられている。

 

 今のような事情ゆえ、パンデミック対策を勉強するつもりで読み直してみました。とても50年前の作品とは思えないヴィヴィッドさでしたよ。