キース・ピータースンは1983年に別名でMWAペーパーバック賞を受賞した作家、なぜかその作品は単発で終わり、5年を経て本書で再デビューを果たしている。主人公に選んだのは、ニューヨーク<スター紙>の事件記者、ジョン・ウェルズ45歳である。
ウェルズは<スター紙>で10年の実績を持つエース記者だが、この時点(1988年発表)でもタイプライターで記事を書き、出張時は記事を速達でオフィスに送ったり付近のサテライトからFAXを送る「アナログ人間」である。職場の編集長は10歳以上年下、事実の報道よりは「売れる記事」を求めるので、記者魂のあるウェルズとはしばしば激突する。
さらに妻には去られ、一人娘にもしばらく前に自殺されてしまったという重い過去をウェルズは背負っている。そんな彼に、ニューヨーク近郊の郡部で同じハイスクールの生徒が6週間に3人自殺するした事件を取材せよとの指示が下る。自分の娘が死んだのと同じ世代の3人の死を、ウェルズは複雑な思いで調べ始める。
ハイスクールの校長、3人の自殺者の親、地元警察の署長に取材したウェルズは、3人とも事情・状況は違うがほぼ自殺に間違いなく、地元警察の捜査にも手落ちがないと思った。しかし3人目の自殺者の母親は、「娘は殺された」と訴える。またウェルズを深夜の森に誘う青年とおぼしき影は、「森には死が潜んでいる。3人を殺したのは死神だ」とささやく。
作者は事件の推移と並行して、妻との出会いや確執、娘と暮らした日々とその自殺などウェルズの過去を抑えた筆致で描いてゆく。ともすれば冗長になりがちで本筋を阻害しかねないところだが、ストーリーに厚みを加える欠かせない部分になっている。
もうひとつ物語にリアリティを持たせているのが、ウェルズだけでなく多くの登場人物が「壊れた家庭」に悩んでいること。一見平穏そうに見える政治家一家でも、家族には秘密がありそれが次男の自殺につながったと思われる。人生に迷いながらも矜持ある事件記者でいたいと思っているジョン・ウェルズのこのシリーズ、なかなか読ませますね。あと3冊たしか買ってありました。楽しみにしておきましょう。