新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カジノ船という要塞

 ドナルド・E・ウェストレイクは作風の広い作家でユーモア色の強いものから、本書「悪党パーカー」もののようにリアルを追求したものもある。すでに2作ほど紹介しているこのシリーズ、恋人(というより情人?)クレア以外は決まったレギュラーがおらず、パーカーはその時の状況に応じて顔見知りを集めて犯罪を計画する。

 

 今回のターゲットは、ハドソン川を遊弋する「カジノ船」。船のオペレーションに詳しいキャスマンという引退した会計士から持ち込まれた仕事で、キャスマンは情報料を払ってくれれば仕組みを教えるという。

 

 船の中では高額の賭け事が行われているが、チップの購入には現金しか使えない。船の中には厳重に警備された金庫室があって、ここに現金が送られてきたらチップを返送する仕組みだ。営業終了後は特別に船腹に設けた搬入出口から、現金を輸送車に直接運び入れる。

 

 船はある意味の要塞で、乗り込むにも(犯行後)逃げるにも、獲物を持ち出すにも課題がある。一方で、獲物が現金だというのは抗しがたい魅力。宝石など盗んでもこれを現金化する1ステップがかかるのが、色々な意味で問題なのだ。プロの犯罪者は「アシのつかないカネ」しか信用していない。

 

        f:id:nicky-akira:20200220064904j:plain

 

 パーカーは仲間を集める一方でハドソン川周辺の下見を繰り返し、川の流域で麻薬を栽培しているハンセンに接近する。彼が川の地形に詳しく適当な船を持っているからだ。勝手知った仲間以外の関係者である、キャスマンとハンセン。この2人に対するパーカーの接し方が対照的だ。

 

 犯罪には素人で向こうから話を持ち込んできたキャスマンに、パーカーは決して心を許さない。一方官憲の目を盗む商売が長いハンセンには、重要な役割(逃走ほう助)を依存しながらも、相応の警戒しかしていない。

 

 一番カネの落ちる金曜日夜のカジノにマトを絞ったパーカー一味は、カジノに反対する州の下院議員(・・・うーんどこかの野党議員みたいだ)とその護衛警官になりすまして船に乗り込む。獲物を持ち出すための別動隊も潜入させ、緻密な計画はついに実行段階に入った。

 

 最初の銃声のあとまで続く作戦計画はないとどこかの将軍が言ったように、パーカーたちの計画にも問題は次々に襲ってくる。それでも、カジノ船という要塞を襲う計画は本当に実行できそうなほどリアルなものでした。ま、やってみようとは思いませんが。