ヘンリー・スレッサーは1927年ブルックリン生まれ、コピーライターを振り出しにディレクターなどを経て、広告代理店を経営するようになった。本業のかたわら1950年代から短編ミステリーを<EQMM>などの投稿するようになり、「グレイ・フラノの屍衣」でアメリカ探偵作家クラブ最優秀処女長編賞(1955年)を受賞をしている。彼自身身を置いていた広告業界を舞台にした、ストーリー展開が二転三転する作品だというが、僕はまだ読んだことがない。
彼の名は、長編ではなくそのひねりの効いた多くの短編&短編集で日本の読者にも知られるようになっている。本書はその中で、<ヒッチコック・マガジン>に発表された「ルビー・マーチンスンもの」10編を、日本で独自に編纂したものだ。
23歳の赤毛で小柄な青年ルビーはオフィスの経理係として地味な生活を送っているが、その実は悪魔的な頭脳を持ち良心のひとかけらもない犯罪者。あらゆる悪事を歓迎し、どんな怖ろしい犯罪でも計画する・・・と紹介されている。紹介しているのはルビーの従弟で18歳の「ぼく」、気が弱くいつもルビーの犯罪計画に巻き込まれるちょっと変わった「ワトソン役」の青年だ。
悪魔的と言っているのは「ぼく」だけで、その犯罪計画たるや読者がふきだしてしまうようなものばかり。さらにその実行にあたっては、不運な偶然(時には幸運な偶然)もあって皮肉な結果に終わってばかりである。ルビー自身、カフェでフレンチクルーラーを頬張りながら、
「$850あまりの損失だ。強盗で得たカネでは拳銃代も出ない。夜盗では往復のタクシー代で赤字だ」
という。例えば食料品店からの盗みは$65になったが、下見の費用・変装用の衣料・逃走用自転車が破損した修理代などで$110の支出である。編集者としてのアルフレッド・ヒッチコックはスレッサーの短編を評して5項目の特徴を挙げているがその中に、
☆ 犯罪は引き合わないが、楽しいものであることは確かだ。
という項目があって、これがスレッサー作品を最も的確に表した言葉だと思う。「楽しい犯罪」を地で行くスレッサーの短編習。あと2~3冊は日本でも販売されているようですから探してみましょう。