カトリーヌ・アルレーはサスペンスものを得意としたフランスの作家、特に悪女を描かせたら一流の腕前を発揮する。生年月日も不詳、元女優だったとも言われるが経歴についても分かっていない。第二作「わらの女」がヒットし、これについては以前にも紹介した。虚栄心の強いオールドミス(失礼、当時の言葉で紹介させていただく)を待ち受ける罠の恐ろしさは、10代だった僕にも伝わってくるほどだった。
彼女の第四作が、本書。かなり特異なミステリーで、登場人物は4人しかいない。その4人が交互に一人称で語り続ける形式を採っている。
◆ジャン 青年実業家、富豪を気取っているが事業は破綻寸前、30歳。
◇アガット ジャンの美しい妻、26歳。
◆マルセル 独身の中年実業家、風采は上がらないが石油成金になる。45歳
◇マルト マルセルの親代わりの姉、女医。独身で、癌で死期が迫っている。53歳。
アガットが美男子ながら破産しそうなジャンに見切りをつけ、彼を殺して保険金を手に入れた上、純朴なマルセルをたらしこんでその財産も狙うというのがメインストーリーである。
マルセルまでもが殺された後、アガットとマルトの女同士の対決が凄まじい。愛情も何もなくただ利己的な欲望のために、あっけらかんと伴侶を殺し続けるアガットに対し、マルトの冷たい怒りが叩きつけられる。男たちは割合ステレオタイプに描かれているのに、女性2人はド迫力で読者に迫ってくる。全てが一人称の独白なので、4人の想いがストレートに伝わるのだ。
結末はミステリーマニアには読みやすいのですが、それは重要ではなくぶつかり合う女2人の思念がこの作品の主題でしょう。それにしても、フランスの女性は恐ろしいです。