広田厚司という人は、会社勤めのかたわら欧州大戦史を研究し、雑誌「丸」などに多くの投稿をしている。この光人社NF文庫にも多くの著作があり、先日紹介した三野正洋とは少し違った視点で第二次世界大戦の兵器を分析している。
本書は第二次欧州戦線に現れた、もしくは現れるかもしれなかった「へんな兵器」を取材し、31の項目に整理したものである。中には実戦に使われて効果をあげた「マルベリーズ人工島」のような例もあるが、大半は構想のみか試作されても役立たずに終わっている。
意外な事実を知ることができたのは、「近接信管」が陸戦でも使用されていたこと。太平洋戦線で日本軍機を血祭りにあげた代表的兵器(あるゲームでは配備されると米軍艦艇の対空火力が倍になる)だが、パットン軍団がモーゼル川でドイツ軍に使用しパットン将軍も驚く戦果を挙げたとある。確かに敵の近くに行くと爆発する砲弾は、航空機以外にも効果はあると思う。
表紙にある、2つのドイツ軍の構想兵器を紹介しておこう。上は「アメリカ爆撃機」として検討された無尾翼機「ゴータ229(別名ホルテン9)」である。2基のジェットエンジンによって8.5トンの機体を時速1,000kmで飛ばし、ドイツから米国東海岸を攻撃できるはずだった。兵装としては、30mm機関砲4門と1トン爆弾を積載予定だった。
下は炭素粉塵爆発の爆風を渦巻き状に制御し、その推進力で垂直上昇や高速飛行を可能にした「レパルシンA/B」と呼ばれる構想。UFOのような外観だが、試作品を作った「ゴータ229」とは異なり、構想のみに終わった。しかし炭素粉塵爆発技術は「真空爆弾」として試作され、米軍爆撃機の迎撃に使われたこともあった。(戦果不明)
「真空爆弾」は、現在の「気化爆弾」に通じる発想かもしれない。そのほか「電磁砲」もドイツは試作した。現在の「レールガン」と原理は同じ、20mmの砲弾を通常の22倍以上の高速で撃ち出すことができたが、1門あたり4MW以上の電力を喰ったので実戦配備には至らなかった。アニメ「エヴァンゲリオン」で街中の電力を集め(停電させ)て砲撃したアレである。
ほかに特殊潜航艇や滑空爆弾を両陣営が使った話や、「氷山空母」の構想も記されている。アイデアそのものは不滅だし、「殺し合いともなれば、人類の知恵は無限」ということである。