カッパノベルズは、正直あまりたくさん買った記憶はない。日本のものばかりであることも理由の一つだが、お値段がやや高めで1冊の体積も大きいのが問題。お値段の方は、Book-offの110円コーナーで探すのならハヤカワや創元社のものと同じになった。しかし体積(&重量)の方は変わらない。海外出張のカバンに詰め込むときも、通勤のバッグに収めるときも、できるだけコンパクトな本の方がありがたい。
さらにカッパノベルズは書下ろしが多いことも、敬遠しがちな理由である。すでに出版されて評判がよく文庫版で再販されるものなら、ある程度の品質は保証される。しかし書下ろしだと、当たり外れが多いように感じるのだ。もちろん定評ある作家の新作なら、そこそこ売れることは間違いない。本書もそんな書下ろしの一冊で、作者の活動の中でも終盤にあたる時期(1989年)の発表である。
「私」は、北海道警察札幌本署の捜査三課の刑事。通常の勤務のほかに、商社の社長の私的な用事を引き受けその代わりに「小遣い」をもらうなど便宜を図ってもらっている。商社の野宮社長夫妻も、「私」の見合い相手を探してきたりその娘が金銭トラブルに巻き込まれた時も、援助したりして「私」をつなぎとめようとしている。大きな悪事を手伝わせたり、共謀するようなことではないが、小さな服務規程違反を「私」は繰り返している。
野宮家にかかってくる脅迫電話やペットの毒殺について、「私」は野宮家社長の「私兵」となって独自捜査を始める。怪しげな人物がチラつくが決め手を掴めないうちに、野宮社長の愛人が不審死を遂げて「私」も捜査一課の事情聴取を受ける羽目になる。
作者は多くのミステリーを見てきて、スーパーマン的刑事・正義感に貫かれた刑事・悪徳刑事など、ミステリーが取り上げる「刑事像」に疑問を持ったようだ。警官といえども人間で、弱みもあれば欲もある、処遇への不満などもあるだろう。そんな血のかよった刑事を書いてみたかったと思われる。
「私」を含む何人かの刑事が出てきて、軽く呑んでの飲酒運転もすれば、証拠をちょっとだけ強化することもある。そんな「ちょい悪刑事」たちの行動様式は、とてもリアルだった。シリーズ化されたとは聞かないのですが、それは多分作者が本書で書きたかったことを全部書いてしまったからだと思います。