新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

主任警部のクロスワード

 本書は一時期アガサ・クリスティーの後継者とも評された本格ミステリー作家、コリン・デクスターの第三作。しばらく前にデビュー作「ウッドストック行き最終バス」と第二作「キドリントンから消えた娘」を読んだのだが、ちょっとコメントを書く気にならず残りの数冊も読まずにいた。ところが先日、平塚のBook-offで大量にハヤカワ・ポケットミステリーが手に入って、その中に本書を含めたコリン・デクスターの著作が数冊あった。

 

 前二作同様ロンドンから少し離れた街オックスフォードを舞台に、地元警察のモース主任警部が活躍する物語である。僕はこのあたりの土地勘がないのだが、容疑者のひとりがパディントン駅から列車に乗って1時間20分くらいでオックスフォードに戻っているところから、東京・小田原くらいの距離だろうか?

 

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 海外からの留学生の検定試験をつかさどる委員会で新任のクイン審議員が、自宅アパートで毒殺されているのが発見される。死後2~3日経っているようで、3日前の金曜日午後以降見かけた人がいない。クイン青年は好人物で敵も見当たらないことから、モースは海外留学生の検定に関する不正が背景にあるのではと考える。

 

 冒頭欠員が生じた審議員の補充を、数人の候補者から選抜する関係者の議論が面白い。クイン青年は優秀だがひどい難聴で、ほとんど耳が聞こえない。ただ読唇術に精通していて、普通の会話に不自由はない。もう一人の健常な候補者を推す審議員に事務局長が、「当機関は税金で運営されている。同じ能力であれば障碍者を雇用すべきだ」と言ってクイン青年を採用する。ミステリーとしての本筋ではないのだが、留学生の選抜検定や障碍者雇用のスタンスがこの時点(1977年)で確立しているのは、さすがに大英帝国だと思う。

 

 ミステリーとしては、関係者が限定されている中でいかに意外な解決をするかという工夫が強くみられる。モース警部も部下を連れて飲み歩いたり、独り言のような推理を繰り返すばかりであまりアクティブではない。ラスト80ページ(文庫で100ページ相当)でのどんでん返しは鮮やかなのだが、手掛かりが英語の発音だったり単語なので、日本人には難しいトリックだ。

 

 作者はクロスワードパズルの鍵を作る名人で、3年連続チャンピオンになっているという。なるほど言葉のトリックがうまいわけだ。前二作もそうだったのですが、どうも解決部がわかりにくいです。まあ、残りの何冊かはそういう点に気を付けながら読んでみます。