新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

官邸全体を「Team」とするには

 本書は、小泉純一郎が5年5カ月の間総理大臣を務めた期間のすべてで政務秘書官を務めた、飯島勲著になる官邸記録である。20世紀には誰もがあり得ないと思った「郵政民営化」を政治家としてやるべきこととして掲げ、2度の自民党総裁選挙で敗れながら最後に総理総裁の座を勝ち取り、「郵政」に代表される古い日本の構造改革を半ばまで成し遂げた記録である。

 

 ただこれらは決して小泉総理一人の功に帰すべきものではなく、官邸全体の「Team小泉」として闘い続けたすべての人たちに捧げられるべき成果である。本書で取り上げられた大きな事件としては、

 

ハンセン病訴訟の決着

・9・11同時テロとその直後の総理訪米

・外務省騒動から田中真紀子外相の更迭

・二度にわたる訪朝と拉致被害者帰国

イラク戦争後の自衛隊派遣

・米国産牛肉のBSE騒動

 

 などがある。その間、すでにあったいろいろな制度(経済財政諮問会議特命担当大臣、総理補佐官)を活性化し、各府省との連携を密にするために秘書官のほか連絡室参事官を任命して活用している。そして構造改革として、郵政民営化のほかにも道路公団民営化、医療制度改革、年金制度改革、市町村合併などを成し遂げている。

 

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 前任の森総理の時代に作られた「IT戦略本部」(現IT総合戦略本部)を活性化したのも小泉内閣で、国家のIT戦略を明示している。大きな構造改革の方針として2001年から「骨太の方針」を定めたのも小泉官邸の成果だ。積極的に民間時を登用、有名なのは現在東洋大教授でパソナ会長の竹中平蔵総務大臣

 

 僕自身間接的にだがこの時期の小泉改革に関わり、以降20年近くデジタル屋として政策に関する研究をしているのは「小泉改革」があってのことだ。本書にも随所にお目にかかった人たちの名前を見つけて、本書は懐かしく読んだ。

 

 文庫版は2016年に出版されていて、付け加えられた「あとがき」には民主党政権の失敗を、未成熟な組織とリーダーの政治的未熟によるものと断じている。「政治主導」を標榜するあまり官僚批判を繰り返し、うまく使えば能力を発揮してくれる彼らを使いきれなかったと著者はいう。

 

 第二次安倍内閣は、第一次の「お友達内閣」の失敗を教訓に菅官房長官を要に据えて安定した政権運営をしていると評価している。ただ今の安倍官邸の「コロナ禍」対応を見ると、先祖返りしたように見える。飯島秘書官はどうお考えだろうか?