新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

企業参謀としての僕の参考書

 まだ20歳代だったころ、偶然の人事で僕は本社のスタッフ部門に転勤になった。技術が売りのこの会社、当時少なかった工学修士を技術開発の戦線から外し、スタッフ部門に回すというのは極めて異例だった。それが後年の僕を救うことになるのだが、当時は非常に苦しんだ。

 

 そんな時出会ったのが、大前研一著「企業参謀」という本。何度か読み返して「スタッフとはこういうものか」と実感し、できる限り実践しようとした。今もある意味スタッフ的な仕事をしているのだが、「参謀」と題した本はできるだけたくさん読もうと思っている。

 

 日本の歴史でも例がないほど巨大な組織だった「帝国海軍」、その中での参謀像を解説した本書は役に立った一冊である。著者吉田俊雄は米内光政(元海軍大臣)らの副官を務め、1943年から軍令部勤務、終戦時には中佐だった。太平洋戦争における8名の参謀を、自身が間近に見た経験から論じたのが本書。この前に「良い指揮官、良くない指揮官」という著書があり、本書はその続編にあたる。

 

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 「良くない」とは、悪意を持って私腹を肥やすとか利敵行為をするのではなく、自身は御国のため海軍という組織のため良かれと思って行動するのだが、役に立たなかったり結果として害悪だったりすることを意味している。

 

 本書に取り上げられた8人は「架空戦記」や「シミュレーションゲーム」などでも名を知られた人たち。

 

 ・ミッドウェー海戦に兵棋演習で、命中弾の数を減らした宇垣中将

 ・真珠湾作戦を一人で考えたという伝説の黒島少将

 ・生粋のヒコーキ乗りで「源田サーカス」の異名をとった源田大佐

 

 などは特に有名である。一方、情報将校上がりで海上護衛戦に手腕を発揮した大井大佐のような地味な参謀も取り上げられている。

 

 参謀にはいろいろなタイプがあるが、指揮官を補佐することにかわりはない。指揮官の欠点を補完するのが普通だが、同じような考え方を持っていて、指揮官がやりたいことを先回りして深堀りするというのもいい組み合わせだ。

 

 実際には今の日本企業でも、いい組み合わせが得られないことの方が多い。著者は海軍人事の硬直性を挙げて批判しているが、日本の大企業は多かれ少なかれ海軍と同じ「閉じたムラ社会・至れり尽くせりの福祉社会」の欠点を持っていると言えよう。本書は、各社の人事担当部門にこそ読んでほしい指南書だと思います。