新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

計画殺人の難しさ

 本格ミステリーだと、どうしても犯罪は殺人が中心に据えられることが多くなる。「ノックスの十戒」の中にも、殺人未満の事件では不十分だとの記述がある。また結果として人が死んだのだが、衝動的な殺人・事故のようなものではインパクトが薄い。どうしても計画殺人が主役になる。

 

 自分が計画殺人をすることを想定してみると、いくつか課題がある。

 

(1)確実に殺す方法、人はなかなか死なないものだ。

(2)自分が罪に問われない方法、例えばアリバイ作り。

 

 加えて作者の方からすると、

 

(3)人を殺したいという強い動機の設定

 

 も課題の一つだ。本書の作者津村秀介は、この(3)の設定はうまい。長年「週刊新潮」で「黒い事件簿」を書いていた人で、現実の事件を数多く知悉しているからだろう。本書の容疑者は兄妹の恐喝者を連続で殺した疑いをかけられるのだが、一人は1億円、もう一人は1,000万円を要求されていたらしい。そのどちらが・・・というところの検討などは経験していないと書けないところだ。

 

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 さらに土曜日の昼に広島県西条市で兄を殺し、翌日曜日の朝芦ノ湖から小田原へ抜ける道路で妹の死に関わることをどうやったかという謎も面白い。容疑者の一人は箱根のホテルにずっといたと言い、もう一人は山形・天童・上高地を廻っていたと複数の承認や使い捨てカメラのフィルムを証拠に出してくる。容疑者は(2)を周到に用意していたわけだ。

 

 結局、事件は警察(広島県警・神奈川県警)の手にはあまり、浦上伸介・前野美保の登場となる。本書は作者44作目の作品で、伸介は警察からも「アリバイ崩しの名人」と呼ばれるようになっている。二人は時刻表を調べるだけでなく、芦ノ湖・山形・天童・上高地・西条を巡る。特に観光地を歩くシーンが多いのは、作者が旅行好きゆえだ。この辺りも、僕の好きなところ。

 

 最後に鉄壁と思われたアリバイを二人が崩し、真犯人は逮捕されることになる。そのプロセスはいつもながら面白く読んだ。・・・しかしである。この犯人、(1)についての周到さは微塵も見られない。アル中とは言え大の男を白昼ナイフで一突きで殺し、妹の方も崖から落とすだけだ。時刻表に追われ分・秒を争いながら、人殺しはスケジュール通りにできると思っているようだ。

 

 まあそこまで目くじらを立てるのはどうかと思いますが、ちょっと細かいことが気になってしまって・・・。