新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マイロン・ボライター自身の事件

 本書はハーラン・コーベンのマイロン・ボライターものの第三作。スポーツエージェントであるマイロンとその仲間たちの活躍を描いた作品群で、これまでフットボールとテニスの世界での事件を扱っている。いずれもプロの契約金やCM出演料、果ては裏金まで、膨大なカネと欲望が渦巻く世界での事件である。

 

 シリーズものでは、作者はいずれ「自身の事件」を描くことになるが、マイロンのそれは第三作でやってきた。マイロンは弁護士資格もあり、FBIでの捜査経験もあるが、元々はバスケットボールの選手。大学時代はヒーローで、ドラフト1巡目にNBAセルティックスに指名されプロ入りしている。

 

 オープン戦で大活躍をするのだが、試合中自分(190cm以上)より大柄の2人に挟まれてヒザに大けがを負い、プロでは1試合にも出られず引退した。今はエージェントとしての仕事のかたわら、趣味でバスケットボールを楽しむくらいだ。

 

 そんな彼にNBAドラゴンズのオーナーが、意外な依頼を持ってくる。ドラゴンズに入団して失踪したスーパースター、グレッグを探してくれというのだ。オーナーはグレッグの失踪をチーム内でも秘密にしていて、捜索者はドラゴンズの一員になる必要があるという。

 

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 グレッグはNBAドラフトの同期、自分がケガをした時も一番心配してくれた友人だ。グレッグの別れた妻は、大学時代マイロンの恋人でもあった。複雑な思いで捜査を引き受けたマイロンだが、チームメイトたちには不審の眼を向けられる。

 

 高額の年俸とCM等の出演料を得ながら、グレッグの家計は火の車だったらしい。妻も離婚時に慰謝料をとれなかったと訴える。どうもグレッグにはギャンブル癖があったようだ。捜査を続けるうち、彼を脅迫していたと思しき女の死体が発見される。グレッグの代理人、スポーツ記者、ドラゴンズファンの女などが絡んできて、グレッグの容疑が深まる中、マイロンは、

 

 「窮地のグレッグが頼るもの。それは同じ純化された空気で育てられた人だ」

 

 とつぶやく。マイロン自身もそうだったように、高校・大学とスポーツ界の純化された花道しか知らない大男だちには、それ以外に真に頼れるものはいないという意味だ。500ページを超える力作で、米国探偵作家クラブ賞を受賞した作品です。書評では「軽ハードボイルド」とありますが、立派な本格ミステリーでした。