新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

不可能犯罪アンソロジー

 子供のころに読んでいたのは、主に創元推理文庫。ハヤカワ・ポケットミステリーより値段が手ごろだったし、ポケミスの2段組みは読みにくかった。それがいつの間にかハヤカワもミステリー文庫を出すようになって、選択肢が増えた僕は喜んだものだ。この文庫は、アンソロジーが多かった。ミステリマガジンという雑誌を早川書房が持っていたことと関係があるのかもしれない。

 

 本書もそんなアンソロジーのひとつ。テーマは密室・・・というより不可能犯罪である。大家から新鋭、この1作で消えた人も含めて、彼らが書いた21の短編が収められている。ディクスン・カーやクレイトン・ロースンなど定番の作者のほか、密室と結び付けるのが難しいビル・プロンジーニの1編も入っている。編者は、この人も多芸な才人であるエドワード・D・ホック

 

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 個々の作品も面白いのだが、巻頭に密室ものの長編のランキングを17人の作家が投票して決めたという記事がある。これはホックの発案になるもので、クイーンなどの大御所だけでなく冒険小説家のダグラス・リーマンなども加わっている。

 

 1「三つの棺」 ディクスン・カー 1935年

 2「魔の淵」 ヘイク・タルボット 1944年

 3「黄色い部屋の謎」 ガストン・ルルー 1908年

 4「曲った蝶番」 ディクスン・カー 1938年

 5「ユダの窓」 カーター・ディクスン 1938年

 6「ビッグ・ボウの殺人」 イズレイル・ザングウィル 1892年

 7「帽子から飛び出した死」 クレイトン・ロースン 1938年

 8「チャイナ橙の謎」 エラリー・クィーン 1934年

 9「9×9」 アンソニー・バウチャー 1940年

10「孔雀の羽根」 カーター・ディクスン 1937年

 

 カーター・ディクスンディクスン・カーの別名だから、さすが密室の巨匠カーは1位を取ったうえで、ベスト10の半分を占めている。またこのアンソロジーが編纂されたのは1981年であることから、1940年代後半からこの手のミステリーは出なくなったか、過去を超えられなくなったことがわかる。日本にも1930年代のミステリーは一杯紹介されたからだろうが、これを外れた#2,6,9は僕は読んでいない。特に「魔の淵」、どうしても探したいですね。