新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Mission Impossible,1940

 本書の作者トミー・スティールはこれがデビュー作・・・なのだが、本書発表(1983年)以前から有名人である。本業(?)はロックミュージシャン、「Rock with the Caveman」などのヒット曲で知られ、映画や舞台でも活躍する俳優でもある。

 

 シェークスピア劇も得意だと言うが、彼が選んだ小説のテーマはもう少し近い過去である「ダンケルク」だった。1940年5月、英国の大陸派遣軍は危機に瀕していた。フランス・ドイツ国境のマジノ線イギリス海峡沿いの中間にはアルデンヌの森があり、そこは大規模な軍隊は通過不能と言われていた。

 

 しかしドイツ軍のロンメル将軍は、ここを突破する研究論文を発表していてこれを採用したヒトラーは第七師団にロンメルを赴任させたのだ。これを察知した英国情報部だが、軍の中枢はとりあわない。老情報部司令官ピークは、引退していた工作員マーシュを現役復帰させてドイツ軍の侵攻を遅らせる作戦「Final Run」を発動する。

 

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 マーシュは数年前のスペイン内戦時の協力者である貴族マリアを呼び出し、マドリードに滞在しているドイツのツァイス男爵に接触する。ガンを患っているマリアは、死を覚悟しながらマーシュの作戦に協力する。ツァイス男爵は副総統ルドルフ・ヘスに近い。マーシュが男爵を通じてドイツ中枢に持ち掛けた案は、

 

・スペインを仲介に英独仏の間で停戦交渉をする。

・英国の代表はウインザー公爵、将来公爵を英独両国の王とする。

・欧州がまとまれば米国の富にも、ソ連の台頭にも対応できる。

 

 というものだった。その間にドイツ軍はアルデンヌを突破、英国大陸派遣軍は敗れてダンケルクに撤退しつつあった。このままドイツ軍に追われれば、全滅しかねない。「海峡を渡る船が用意できるまでドイツ軍の足を止めろ」とピークはチャーチルに命令される。

 

 マーシュは英国で変装が得意な詐欺師2人をリクルート、ウインザー公爵とチャーチル首相に化けさせてパリからベルヒテスガルテンへと向かう。停戦交渉を信じたドイツ軍は、ダンケルクの16km手前で停止する。

 

 実際この停止は歴史の謎と言われていて、ヒトラーの気まぐれとかゲーリングが空軍に手柄を立てさせたかったなどの説がある。ミュージシャンが描く歴史上の「Mission Impossible」、最後が少し残念だったけど面白かったです。