新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「公平・中立・簡素」が大原則だが

 昨年の消費増税によって不況が来たという人たちは、税率をもとに戻せと言うし消費是5%で野党共闘をしようという声も上がった。そして今「コロナ禍」の緊急経済対策として、即座に消費税の(時限的)廃止を言う人たちも出てきた。

 

 主旨は理解しているが、例えばPOSシステム、津々浦々のシステム改修に相応の時間がかかることから「緊急経済対策」というのには間に合わないと思う。それはさておき考え方として、一旦5%に戻すというのはありかもしれないと思う。それは軽減税率やポイント還元といった屋上屋施策で制度が歪んでしまったからだ。

 

 本書の著者森信教授とは、マイナンバー導入に関して議論させていただいたことがある。その時すでに本書は読んでいて、「税制」というものの基礎を教えてもらったのがこの本だった。出版は2000年というから古い本なのだが、書いてある内容は決して古くない。Web上の法人に課税できるかという節は、今の「デジタル課税」論議を先取りしている。

 

 著者が本書で一貫して主張しているのは、その税制は「公平・中立・簡素」の原則に叶うかということだ。法人税所得税相続税も、課税ベースを広げて税率は下げるのが正しいとの主張。しかるに現実は、低所得者への配慮、中小零細企業への配慮がいつも出てきて課税ベース拡大にはハードルが高い。

 

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 消費税は誰でも消費する段階で払うので課税ベース拡大には寄与するが、上記のように軽減税率などで歪められてしまう。諸外国に比べて(当時)5%だった税率は低いものだと著者も言う。

 

 副題にあるように「グローバル時代」に税制はどうあるべきかが本書を貫くテーマ。さすがに「TAX Heaven」のことは書いてないが、グローバルビジネスをしている企業や「世界を股に掛ける」個人が増える中、彼らはどこで税金を払うかある程度の選択肢を持ってしまう。だから世界の税制はモデレートに収斂していくべきだと思う。

 

 本書の最後の節に「環境税」の話が出てくるが、これだけはまだ実現していない。この「コロナ禍」でちょっと停滞しているように見えるが、環境税も「グローバル」を意識せざるを得ないもの。このあたりの議論も今後必要だと思います。繰り返しますが「公平・中立・簡素」を頭に入れて、今後の税制論議を見守りたいですね。