新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

相性が全てを決める

 先月紹介した吉田俊雄の戦記シリーズ、「良い参謀、良くない参謀」に続き、指揮官と参謀の組み合わせや相性について触れたのが本書である。参謀は、職位が低くても強大な権力を持つことがある。俗に「(指揮官の)虎の威を借りる狐」と言われたり、艦隊そのものを指揮官の名前ではなく「源田艦隊」と呼ぶケースもあった。

 

 これは現在の企業でも同じことで、課長クラスが部長・本部長を飛び越えて役員に直接意見具申するようなケースだ。「良い参謀、良くない参謀」のコメントで述べたように、僕はまだ30歳前の時期に「企業参謀」組織の一角にいた。それ以降もラインとスタッフを往復し、合計すると1対2でスタッフ業の方が多いくらいになった。

 

 「企業参謀」が真価を発揮できるかどうかは、「企業指揮官」つまり経営者との相性に全てが掛かってくる。僕の経験では、やはり1対2で相性の良い指揮官に使えることができたと思う。まあ所詮一企業のしかも分野限定の話だから、大きな影響はない。しかしそれが、帝国海軍という巨大組織であって日本国全体の命運を決めるとすれば注目しなくてはならない。

 

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 例えば山本五十六長官と、黒島亀人大佐の関係。俗にギャンブル性の極めて高い「真珠湾攻撃」を考えたのが黒島大佐で、それを採用し海軍内外の猛反対を押し切って決行したのが山本長官と言われている。

 

 実態からはちょっと誇張されているようだが、山本長官時代の参謀長は宇垣纒中将である。彼の下に黒島大佐など10人の参謀がいた。黒島大佐は10人中の一人なのに、長官から特に重用されたわけだ。山本長官はブリッジなどのゲームやギャンブルが好きで、自然とそれに興味や能力を持つ人たちとの交流が多くなった。宇垣中将はその中には入らない。

 

 「黄金仮面」とあだ名される傲岸不遜の性格である宇垣中将には、人望は少なかった。とはいえ参謀長を軽視したというのは、山本長官の不徳なのかもしれない。真珠湾攻撃の司令官南雲中将も、勇猛な水雷屋ではあるが航空戦術には不慣れでただの臆病者になってしまった。年功序列ゆえ仕方ない人事かもしれないが、山本長官がこれに反対することはなかった。

 

 山本長官はのちに「仙人参謀」と呼ばれた黒島大佐を更迭しようとしたが、その前に撃墜死している。このような史実と人間関係は、僕ら「企業参謀」にも役に立つ話ですよね。